A requiem to give to you- なぜでしょう?(3/3) -
「……違うわよ。そんな訳ないでしょう」
「だ、だってナタリアが今言ってたじゃんか……」
「それはナタリアの勘違いよ。そもそも、私はそんな尻軽じゃあないわよ」
全くもう、と腰に手を当てて憤慨するタリスにヒースも頷いた。
「そりゃそうだ。万が一にもそんな事になれば、君のお父さんや彼氏が黙ってないだろうからな」
「「「彼氏!?」」」
「ちょっと、余計な事を言わないでよ」
ヒースの言葉に再び驚愕した三人は一斉にタリスを見た。それにまた一段と疲れを感じたタリスは米神を押さえる。しかしそんな彼女を余所にナタリアは目を輝かせた。
「タリス、恋人がいますのね!!」
「まぁ、一応ね」
「一応ってか、それでも二年以上の付き合いだろ」
「貴方は黙ってて」
さっきから何なのよ、とヒースを睨むが彼はどこ吹く風だった。恐らく普段の憂さ晴らしのつもりなのだろう。なんて陰険なやり方だ。
「二年以上って言っても、元々幼馴染みだしねぇ。恋仲になったからと言って今までとあまりやってる事は変わらないわよ」
「それでもずっとその方と心が繋がっていると言うのは素敵な事だと思いますわ」
ナタリアにそう言われ、途端に恥ずかしくなったタリスはどこか照れたように「そうかしら」と呟いた。
「そうですわよ! ねぇ、ルーク?」
「知らねぇよ。……それより、妊娠じゃないってなら何なんだよ。お前のその……生理だっけ? それが来ない理由ってのは」
ピシリ、とその場の空気が固まった。
「……そう言えばルーク、貴方は何故ここにいるのかしら?」
「へ?」
タリスの絶対零度の笑みにルークは訳がわからず、たじろぎながらもガイを見た。しかしガイはいつの間にかその場から消えていて、冷たい眼差しがルーク一人に集中する。
「え、……俺、なんかしたか?」
「〜〜〜〜〜〜〜っ、不謹慎ですわよっ、ルーク!!!」
鬼の形相で怒り出したナタリアにルークは慌てて身を引くと逃げ出した。
「だから! 何なんだっつーの!!」
「お待ちなさい、ルーク!!」
バタバタと騒々しく二人が出て行き、途端に室内は静まり返った。そこに途中から黙っていたヒースがタリスに話し掛ける。
「これはハッキリ言って、君も悪いよ」
「だって、いるとは思わなかったのよ」
それにこう言う事って貴方達に相談できないでしょ、と溜め息を吐くタリスに肩を竦める。
「別に異常があるのはソレに限った事じゃないさ」
「? どういう事?」
訝しげにヒースを見れば、彼は「気付かない?」と言ってその癖のある黒髪に触れた。
「この一年程、髪も爪も伸びてないんだ。そして、身長もね」
「そう言えば……そうかもねぇ」
身長はともかく、ここ暫く長くなれば切っていた髪や爪を切った記憶がない。己の爪を見ても、まるで切ったばかりのように綺麗に整ったままだった。
「もしかして……成長とかそう言った類のモノが止まってしまっているのかしら?」
「それはわからない。けど、近いんじゃないかな。そもそもここって、僕達が居た世界とは全く性質が異なる世界だし、成長くらい止まってそう」
「まぁ、これは今度調べてみる必要があるわねぇ」
ふぅ、と一つ息を吐いて冷めてしまった紅茶を口に含んだタリスにヒースも無言で頷いたのだった。
それから二人の予想が間違っていなかったと知るのは、これからまた半年と後の話だった。
END