A requiem to give to you
- 迷宮の教会・ダアト(3/4) -


キムラスカとはこの世界に存在する二大国家の一つだ。その国の色は王家を始め軍に至るまで、全てが赤で統一されているらしい(参考書『オールドラントの国々』より)。また、紅い髪と言うのもキムラスカ王家だけに受け継がれる珍しい物である。稀に貴族が正妻以外との間に出来た子の中にも現れると言った可能性もあるのだろうが、そもそもレジウィーダはこの世界の住人ではないし、いたとしても彼女には何の関係もない。

しかし残念ながら少年にとってはそうでもないらしく、彼は丁度良く(?)キムラスカカラーなレジウィーダに、彼女が今予想している通りの疑念を抱いている様だった。



「あたしはキムラスカ王家でもなければ軍人でもないよ。てか、それ以前にキムラスカ生まれでもな・い・!」



純度100%(?)な地球在住黄色人種な日本人です………とまでは流石に言わなかった。



「それにこの服は学校の制服。髪だって、生まれつきの色じゃないし」

「じゃあ染めたってのか?」

「まぁ、そんなとこ」



肩を竦めながら言うと少年は疑念は残すものの、殺気は消えたようだった。しかし代わりに呆れたようにボソリと「物好きな」と呟いた。



「別に好きで染めたんじゃないよ。………てかさ、そう言うならアンタこそ物好きじゃないか」

「何……?」



少年は眉間に皺を寄せたまま片眉を上げた。



「だってアンタの髪だって紅いじゃん」



少年は身に纏う服こそ神託の盾の軍服だが、その髪はレジウィーダよりももっと鮮やかで深みのある紅だった。毛先に行くに連れて黒くなっていくそれは、まるで深淵に灯る焔のようだとレジウィーダは心の中で思った。



「キレイな色だよね」

「………は?」



素直な感想を述べると、突然何言い出すんだコイツと言う目で見られた。



「何て言うか、同じ紅なのにあたしとアンタの髪って全然違うじゃない? あたしのは紅ってよりは殆ど黒に近いし、寧ろ暗いところで見たら真っ黒だよー」



あはは、と笑いながら自分の髪を少し掴んでは指の間から流す。



「でもアンタ……君の紅って燃える炎みたい。炎と言っても普通に燃えてるような物じゃなくて、底から噴き上がる信念の炎みたいな?」

「……………」

「って、何言ってるんだろうねー。わっかんね」



苦笑しながら乗り突っ込みをする彼女を少年は無言で見ていた。



「ま、とにかく。あたしはキムラスカとは全く関係ない只の迷子だから」

「迷子?」



うん、とレジウィーダはニッコリと頷いた。



「そうそう、迷子なんだよー………………って、そうだった! 迷子なんだよ!!」



目の前で目を白黒させる少年にレジウィーダは「お願いっ!」と両手を合わせて言った。



「入口まで連れてって!」






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







「おぉっ、数時間ぶりの玄関!」

「数時間って……そんなに迷っていたのか?」



少年によって漸く教会の入口まで戻ってきたレジウィーダ。開口一番に出た言葉に少年は呆れながら問うと、疲れた笑みが返ってきた。



「いや、まぁ………予想外の迷宮っぷりに油断しまして……」

「もう探検は終わったのかよ」



後ろから声をかけられ、振り向くとどうやら寝起きらしいグレイが欠伸をしながら近付いてきていた。それからレジウィーダの隣にいる少年に気が付くと、小首を傾げた。



「誰だコイツ。お前の親戚か?」

「何でやねん。彼は途中で会ってここまで案内してくれたの!」

「ふーん」



要するに、迷ったんだな。そう言うとレジウィーダは無言で視線を反らした。


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