A requiem to give to you
- 鳴泣の教会・ダアト(6/7) -


それでもグレイは憶さずに言った。



「オレの事は嫌いでも構わねーけどよ。そう言う判断をせざるを得なかった奴の気持ちも、たまには考えたれや」

「……どういう、こと?」

「目に見える事実だけが全てじゃないって事だ。本当にお前がひとりだと思うなら、もう一度よく周りを見てみな」



先程までのからかう様な笑みを消し、苦笑を浮かべてそう言うと彼は立ち上がってアリエッタに近付き、彼女の頭の上にポン、と一度手を置いて帰っていった。



「………判断……イオン様のこと?」



一人と一匹が残された空間で誰にと言う訳でもなくそう問うと、ライガも小さく鳴きながら首を傾げた。その時、アリエッタの頭から何かが滑るように膝の上にストンと落ちた。



「………?」



手にとって見ればそれは可愛らしいリボンのついた小さな袋だった。何となく開けてみると、その中には人形焼きが入っていた。しかしそれは、



「これ、ライガ?」



かなりデフォルメされた状態ではあったが、それは彼女が知っている人や魔物を模した形になっていたのだ。隣にいるライガにも見せてみると、何となくわかったのかどことなく嬉しそうに体を擦り寄せてきた。



「あ……………」



ふと、視界に入った一つを手に取る。それは彼女が最も愛し、もう一度側にいたいと願う人の形をしていた。



『そう言う判断をせざるを得なかった奴の気持ちも、たまには考えたれや』

(イオン様……)



グレイの言葉と一緒に、大切な人の顔が脳裏に浮かんだ。

何故彼は自分を導師守護役から解任したのか。

自分を嫌いになったから? いらなくなったから? それとも、自分には言えない何か別の理由があるのだろうか……。それは彼自身にしか知る由はないのだが、皮肉にもその彼は既にこの世にはいない。そしてそれをアリエッタは知らない。それが余計に彼女を苦しめていた。



(イオン様……アリエッタは、あなたのお側に……)



滲む視界を服の袖で無理矢理拭う。腕を下ろした先には六神将やヴァン謡将、レジウィーダやフィリアム、グレイなどの形をした人形焼き。そして……



「わたし……?」



他の人形焼きに囲まれるようにして中心にあるアリエッタはとても楽しそうに笑っていた。



『本当にお前がひとりだと思うなら、もう一度よく周りを見てみな』

「………………」



アリエッタは今の自分とは真逆の表情をしているそれを摘み上げ、口に入れた。



「………………」



中身はカスタードクリームだったらしく、ふんわりとした優しい甘さが口の中に広がった。



(もし、アリエッタがこのお菓子みたいにみんなと一緒に笑えたら……)



よく噛んでから飲み込むと、スッと立ち上がった。突然のその行動の意味がわからずライガは不思議そうにアリエッタを見ると、彼女はポツリと言った。



「………アリエッタは、もっと可愛いもん」



だから文句を言いに行く、です。

そう言ったアリエッタの表情は少しだけ明るかった。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







「気に食わない。……ってか、何その良いとこ取りみないなの」



ぶすっとした顔で人形焼きを頬張ったレジウィーダはそう言って悠々とコーヒーを啜るグレイを睨んだ。



「アンタ、全部知ってただろ」

「そうだな」



ブチッ



「なら、何で言ってくれなかったんだよ! 危うくアリエッタの友達に怪我させるとこだった上に、こっちだって死に掛けたんだぞー!!」



レジウィーダは今にも飛び掛りそうな勢いで憤慨する。それにグレイは「まぁ、落ち着けよ」と珍しく普通に宥めていた。それはまるで猛獣と猛獣使いのようだ、と離れた所で静かに人形焼きを摘んでいたシンクが思っていたの彼だけの秘密だ。


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