A requiem to give to you
- 鳴泣の教会・ダアト(5/7) -


しかし、見えない何かはあっさりとその攻撃をかわしてしまった。



「何で当たらないのよぅ!」

「相手が速すぎるんだ!!」



とは言え、ここはとても狭く暗い。また廊下には壁がなく、一歩間違えれば直ぐ様最下層まで真っ逆さま。故にそれほど広範囲には動けない筈だ。



「なら、全体に広がるような術で……」



そこまで呟いた時、見えない何かがいる所よりももっと奥の方からあの泣き声が聞こえてきた。



「ひっ………く、……グスッ……イオン、さまぁ……」

「! この声って、まさか!?」



遠くからでは周りに反響してよくわからなかったが、今の声は確かに自分のよく知る少女のものだった。



(て、事はあの敵って……)

「うらぁっ! 今すぐ沈めてやんよっ!!」



振り返った先ではアニスの人形が片手で敵を押さえ付け、もう片方の腕で拳を作り振り上げている姿が目に入った。



「アニス! そいつに攻撃しちゃダメだ!!」

「え?」













ドンッ














「「あ………………」」



攻撃をやめさせる為に人形に体当たりをしたまでは良かった。結果的に人形の腕は見えない何かを解放し、傷付ける事もなかった。……が、それはあくまで相手にとってであり、勢い良く横に跳んだレジウィーダ達は……



「うっそーん……」

「レジウィーダの……」



















「何このデジャヴうううううううううううううっ!!」

「バカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」




真っ逆さまに落ちていったのだった。



「……………」



見えない何か……ライガはその様子を見送ると、泣いている主人の元に歩み寄った。



「イオン様……っ…、寂しいよ……イオンさまぁ……」

「…………」



あの騒ぎの中でも全く気付く事なく彼の人を思い続けて泣きじゃくるその姿にライガはどうする事も出来ず、ただ彼女の頬を舐めてあげる事しか出来なかった。



「イオン様……どう、して……ひっく、……アリエッタは……イオン様の、っ……導師守護役、なのに………なんで、」



どうしてアリエッタじゃなく、アニスなんですか。

声を殺して小さく叫ぶアリエッタはアニスの物とはまた違う人形を強く抱きしめた。



「寂しい……イオンさ、ま……アリエッタは……もう、ひとりは……いや……っ……」














「本当にひとりなのかよ」



突然直ぐ側で囁かれた声にアリエッタは大きく肩を揺らして驚き声の主を振り向いた。するとそこにはいつから居たのか、グレイが何かを食べながら座っていた。



「グレイ……?」

「最近見掛けねーと思ったら、こんな真っ暗なとこで何やってンだよ」



それにアリエッタは俯いた。しかしグレイは構わずに続ける。



「ンな所で泣いてたって、誰も導師を連れてきやしないんだぜ」

「っ……でも、アリエッタはイオン様の導師守護役、です……!」

「あくまでそりゃ過去形だな。今のお前は"アイツ"の導師守護役じゃねェ。六神将『幼獣のアリエッタ』だ」



だからどうやったって、導師が許可しない限りは戻れねーンだよ。



「……………どうして」



ギュッと人形を抱き締める腕に力が篭る。



「どうして、そんな意地悪言うの……! シンクもアニスも、同じ事言う。二人も、グレイも……大っ嫌い!!」

「嫌いで結構。オレはお前一人に嫌われた所で痛くも痒くもねーしな」



フンと笑いながら言えばアリエッタはキッとグレイを睨む。彼女の側にいるライガも今にも襲い掛かりそうな雰囲気で相手を威嚇していた。


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