A requiem to give to you
- 鳴泣の教会・ダアト(4/7) -



「アニスさん容赦ないっす」

「あたしは基本的に女と金のない男には厳しいの」



若しくは金を無駄遣いする奴ね、と付け加えられた言葉にレジウィーダは苦笑するしかなかった。



「流石守銭奴……」

「何か言った?」



鋭い眼光を放った睨みにレジウィーダは「何でもありません」と首を横に振った。これ以上は殺されそうだと本能的に感じたのだった。そんな彼女にアニスは溜め息を吐いた。



「もう、レジウィーダ! 何しに来てるかわかってる!?」

「勿論。幽霊の正体を暴いて、イオン君を安心して寝られるようにする事っしょ!」

「そのとーり!」



わかってるのならよろしい、と腰に手を当てて何度も頷いて見せるアニスにイオンは首を傾げた。



「あの、アニス。目的が少し違うと言うか、足りないような気がしますが……」

「私はイオン様がご健康であればそれで良いんです! て言うか、寧ろイオン様はもっと傲慢にならなきゃ!」

「は、はぁ……」



穏やかな導師と快活な導師守護役。数ヶ月前までその席に君臨していた腹黒い導師と純情な導師守護役もなかなかすごい関係だったが、こちらも負けてはいないだろう。初めこそはそのギャップに慣れずに焦ったりもしたが、今ではそれも微笑ましく思う。

アニスは時々口が悪かったりお金に煩かったりはするが、12と言う年にしては大人びた思考を持っているし、何だかんだで今の"イオン"を誰よりも大切に思っているのも確かだ。



(だからこそ、悩んでるんだろうなぁ)



アニスの両親の事はこの教団内では有名な話だ。人が良すぎて借金をよく作っては、娘であるアニスが頭を痛めている。そんな彼女がモースの推薦で導師守護役の候補に来たと言う事は、きっとただの偶然ではないのだろう(その候補の中からイオンがアニスを選んだ事は別として)

しかしそれは自分が何とか出来るような問題でもないし、中途半端に手を貸したところで逆に彼女を傷付けかねない。それに、



(イオン君も今の関係を気に入ってる様だし、今はまだ大丈夫かな)



少しばかり気掛かりな事も多いが、取り敢えずは平気だと思う。レジウィーダは一先ずそう自己完結して二人を見た。その時、



「………! 二人とも、静かに!」



微かに耳に入ってきた音に気付き、素早くそう言うとピタリと二人は会話を止めた。



「今、何か聞こえた」



耳を澄ませながら呟いた言葉にアニスとイオンもそれに倣う。






ひっ……く、……っ……びし…よ………

っ、……ひと…っ…は……い…やっ………ひっ、く……






「! この声です!」

「これが……」



三人の耳には確かに女の掠れた鳴き声が聞こえていた。それに一番最初に動いたのはアニスだった。



「っのヤロー、今日こそ正体を暴いてとっちめてやる!!」

「あ、アニス!」



レジウィーダの制止の声も侭ならず、アニスは人形片手に部屋を飛び出した。それにイオンが続こうとしていたのを視界に捉え、慌てて止めた。



「ちょ、イオン君待った!」

「でもアニスが……」



心配する彼にレジウィーダは「大丈夫!」と安心させるように頭を撫でながら言った。



「その為にあたしがいるんだから! アニスの事も幽霊の事も任せといて!」



だから安心して待っててよ!

それだけ言ってレジウィーダもアニスを追い掛けた。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







アニスを追って廊下を出ると、突然雷撃が飛んできた。



「うわっ!? ……と、あぶなー」



もう少しで丸焦げになる所だった、と安堵するのも程々にレジウィーダは雷撃が飛んできた方向を見た。



(今の攻撃、どっかで……)

「ヤローてめぇぶっころぉおおおおおおおおおすっ!!」



ドカーン、と言う爆音と共にアニスの声が響いた。その声には可愛さの欠片もない。苦笑もそこそこに急いで声のした方に行くと、アニスは強大化させた人形の上に乗って暗闇に潜む何かと戦っていた。



「喰らえ、光の鉄槌……───」



手に持つ杖をクルクルと回し第六音素を集中させると、アニスは光の譜術【リミテッド】を放った。


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