A requiem to give to you- 鳴泣の教会・ダアト(3/7) -
「──……それで、その幽霊退治だっけ? あたしは良いよ」
暫くしてから落ち着いてくると、ふとレジウィーダはそう言った。それにアニスは目を見張った。
「本当に良いの?」
「勿論、可愛い子ちゃんが困ってるんだ。協力しない訳ないよ!」
「ありがとう〜! さっすがレジウィーダ!」
ここで大詠師は、と言う突っ込みを入れる勇者は流石にいなかった。グレイとシンクは黙ってクッキーを食べながらも、きっとこの女共の中では既に大詠師の存在は抹消されているだろう事を考え心の中で合掌したのだった。
「よし、じゃあ……」
「言っておくけど、ボクは行かないからね」
言い切る前にシンクが釘を刺した。
「えぇー」
「別にシンクなんか最初から宛てにしてないよ!」
ベーッと舌を出すアニスにシンクは顔を背けて紅茶を啜った。その光景に苦笑しながらもレジウィーダは一応とばかりにグレイを見た。
「アンタは?」
「オレも行かねーよ。つか、面倒臭ェ」
「あっそ……」
予想通りの返答に呆れ気味に言うと既に行く準備万端なアニスを振り返った。
「んじゃ、行きますか!」
オーッ、と握り拳を上げながら二人は部屋を出ていった。その扉を見てシンクは溜め息を吐いた。
「ホント、馬鹿らし……」
「こればっかりは仕方ねーだろ」
グレイは時計を確認しながら言った。
「どっちも"イオン様"想いなんだからよ」
やれやれと肩を竦めて言われた言葉に、シンクはつまらなさそうに「下らない」と吐き捨てたのだった。
*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇
街の明かりも消えて静まり返った夜。レジウィーダとアニスは導師の部屋を訪れていた。
「あの、何だかすみません。わざわざ来ていただいてしまって……」
「全然! てか、細かい事は気にしないってね♪」
申し訳なさそうにする導師……イオンにレジウィーダは大丈夫だと言うように親指を立てた。それにアニスも頷いた。
「イオン様! 今日こそは絶対に安眠させられるよう頑張りますから!」
「ありがとうアニス、レジウィーダ。でも決して無理はしないで下さいね」
小さく笑ってお礼を述べるその姿はまるで天使の様だった。それに可愛い子好きのレジウィーダが黙っている訳がない。
「〜〜〜〜っ、もう……ホンッとに可愛いこの子! 抱き締めたくなる〜v」
「って、もう抱き締めてるっちゅーの!」
アニスの突っ込みが空かさず入るが、レジウィーダが気にする筈もない。
「あ、あの……レジウィーダ、」
苦しいです……と、イオンは力強く抱き締めるレジウィーダの腕を軽く叩きながら言った。彼の様子に気付いたアニスは背中に背負っていた人形に手を掛けた。
「だぁ〜かぁ〜らぁ〜……目的が違うだろうがぁっ!!」
「ヌゴッ」
巨大化するかと思い気や、アニスは人形をそのままレジウィーダの頭に降り下ろしたのだった。見た目は柔らかそうだが、ディストの施した譜業が組み込まれている為に思い切り当たればすごく痛い。
「アニスー痛いー」
「痛いーじゃないよぅ! 本当にレジウィーダってば抱きつき癖が絶えないんだから!」
「可愛い子ちゃんを愛でて何が悪いか!」
因みにアニスも可愛いぞ、と言いながらイオンを離してぎゅうぎゅうと抱き着けば「はいはいわかってますよー」と慣れた手付きで引き剥がされてしまった。
その様子にイオンは再び笑った。
「本当に貴女は面白い方ですね」
「そうですかぁ? ただしつこいだけの様な気もしますけど」
「それ程でもないよ」
「褒めてないから!」
何故か照れたように笑うレジウィーダにアニスは再び人形を降り下ろした。
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