A requiem to give to you
- 萌ゆる焔の午後(4/4) -



「よし、じゃあ俺今から勉強してくる! そしてヴァン師匠を驚かせるぜ!」



それはまるで親に褒めてもらいたい一心で頑張る子の様だった。いや、事実そうなのだろう。未だに会った事はないが、そのヴァンと言うのは彼にとって実父よりも父に近い存在とも言える人なのだから。そう思うと少し居たたまれない気持ちになったが、本人が意気込んでいるのだから、今はそっとしておこう。



「あ、そうだわ」



ふと、ある事を思い出して声を上げるとルークは「どうした」とこちらを向いた。タリスはベッドの近くに置いてあった携帯電話を手に取るとルークに差し出した。



「これは?」

「携帯電話……スマホとも呼ばれてるわ。主な機能として本来は通信する物なんだけど、電波がない異世界(ここ)では使えないから。でもその他の機能は全然使えるし、良ければいる?」

「え、良いのかよ?」



大事な物なんじゃ……と言う目で見てくるルークに「良いのよ」と返した。



「何だかんだでこうして私達がここに居られるのはルークのお陰よ。それに正直いつ帰るかもわからないのだし、何か残すとしたらこう言う物しかないから」

「何、だよそれ……」



まるでもうすぐ居なくなるみたいに言うなよ、とルークは今までの表情を一変させてそう言った。それにタリスは苦笑して携帯の電源を入れた。



「直ぐには居なくならないわ。まだやる事もあるし、何より……」
















カシャ



「───こんな顔した坊っちゃんを置いて帰れる訳ないわよねぇ」



クスクスと笑ながら携帯の画面に写った物を見せると、



「なっ……なに撮ってんだよ!?」



途端、顔を真っ赤にしてタリスから携帯を奪った。



「あら、なかなか素敵じゃない。……迷子の子猫さんみたいでv」

「どこがだっつーの!」



一頻り大声で突っ込みを入れると、ルークは一つ舌打ちをした。



「しゃーねーから、貰ってやるよ」



ただし!と、タリスを指差して彼は続けた。



「お前らがいつ帰るとしても、その時は必ず俺に言えよ!」



絶対に黙って帰るんじゃねーぞ!

その言葉に思わず笑ってしまった。



「何で笑うんだよ!?」

「だって、ねぇ? フフ……あー面白い」



そう言うと「俺は面白くぬぇっ」と返ってきたが気にしない事にした。



「ルーク」



そう呼んだ時の雰囲気を察したのか、ルークは黙ってタリスを見た。



「これだけは忘れないで。今渡したソレは、"今ここに存る貴方"に渡した物」



そして、



「私が知るのも今のルーク、貴方だけよ」



その言葉にルークは一瞬だけ目を見張ったが、直ぐに顔を背けた。



「……んな事、わかってるっつーの」



そう小さく言った彼の髪は窓からの陽の光を浴び、鮮やかな焔の様になっていた。それはつい数ヶ月前に奥方の部屋で真っ赤に咲いていた花を思い出させた。

暫くしたらガイ達が来るだろう。それまでの間、タリスは興味津々で携帯を弄るその焔の姿を見続けていた。












To be continued...
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