A requiem to give to you
- 萌ゆる焔の午後(3/4) -



そう、何故ならば今のルークはまるで昔の自分の様だったのだ。



(あの頃は私も随分と我が儘放題で、あの人や周りに随分と迷惑掛けたわねぇ……)



タリス……皆川 涙子の家は所謂財閥家だった。また現財閥家当主である彼女の父の母、つまりは涙子の祖母は街の権力者でもある。後々彼女はどちらかを継ぐ事になる訳だが、どちらにせよその為には相当な知識を身に付ける必要がある。

しかし、だからと言って自身がそれを望んでいるかと言えば、別にそうでもない。それ故毎日来る家庭教師達を何かしらの方法で蹴散らして、よく自分を面倒見てくれた人の所に逃げ込んだのを覚えている。そしてそんな彼女の行動に終止符を打った彼は、ある時こう言ったのだ。



『人に教わるのがイヤなら、自分でやっちゃえば良いんだよ』



それは一体どんな屁理屈だ、と今になって思うのだが、幼く色んな意味で自尊心の高かった自分にはそれは何よりも輝いた、理屈の通った言葉だった。



「ねぇ、ルーク」



あの時のあの人の言葉を言ったら、彼はどんな風に返すだろうか。

当時の自分と同じ様に納得する?
それともやはり「何言ってんだお前」だなんて呆れながら返すだろうか……?






……いや、やっぱりやめよう。これでは今と昔の彼を比べているのと同じだ。



「ルーク」



もう一度呼び掛けると彼は「ん?」と返す。



「前はともかく、今の貴方はどうしたいのかしら?」



前の"ルーク"を知らないタリスにとって、以前の彼がしてきた事については正直興味がない。問題は今の彼が何をどうするのかと言う事だけだ。



「俺?」



タリスの言葉が予想外だったのか、ルークは目を丸くして自身を指差した。それにタリスは頷いた。



「そうよ。だって、今の貴方の気持ちや考えは全て今いる貴方自身の物だわ。知りもしない人格を物差しに行動したって詰まらないでしょう?」



それだったら今自分の思う事を、やりたい事をすれば良いではないか。



「只でさえ今の貴方は時間が有り余り過ぎているんですもの。だからと言って剣の稽古以外ではグータラして良いとは言わないけれど、制約があるのならせめてその中でも色々とやりたい事をやってみたらどうかしら」

「やりたい事、か」



そう呟くとルークはうーん、と腕を組んで考え出した。そんな彼の様子にタリスも一緒になって考えながら言った。



「例えば、そうねぇ……剣術一つにしたってその流派はどこから来たのかをちょって調べてみるとか」

「流派って……アルバート剣術の事か?」

「そのアルバート剣術だって扱える人は殆どいないってガイから聞いているわよ。そんな珍しい剣術を生み出した人はどんな事をした人だったのか、またはどんな人だったのか、何を思ってその剣を扱ってきたのか……気にならない?」



指折りで数えながらルークを見て言うと、思いの外真剣に聞いているようで思わず苦笑が漏れる。



「それにね、そう言う歴史や背景からその流派についての知識も心得てこそ、本当にその道を極められる物だと私は思うわ」

「何か……スゲーな! まるで師匠みてぇ!」



子供らしい生き生きと輝かせた目でそう言うルークに「そうでもないわよ」と返した。それはあくまで彼女自身の私感に過ぎないのだから。



「流派の歴史か……。なぁタリス、今の内にそう言う勉強しとけばもっと強くなれるかな!?」

「それは貴方のやり方次第だと思うわ」



そう言うと彼は意気込んだ様に手を握り締めた。


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