A requiem to give to you- 気まぐれWIND(4/4) -
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それから数日後。
「なぁ、聖クーン」
「お前が君とか付けるとかなりキモイな」
「ウッセェ!」
今、僕は至福の時を味わっているんだから邪魔をするんじゃない。そう言うと陸也は何か言いたそうに拳を震わせていたが、やがて不貞腐れたように頬杖をついて窓の方を向いた。
「……オイ、聖」
再び声を掛けられて視線だけ奴に向ける。陸也は窓を見たまま言った。
「何で、オレはこんな所にいるんだ?」
「僕が連れて来たから」
「ああ、そうだな。お前が放課後になった途端人の教室に来てここまで連れて来たんだよなァ」
「……何が言いたい」
いつまでもじれったい陸也に痺れを切らしてそう言うと、奴の米神がピクリと動いた。
「何が……だとォ? 何がってそりゃお前、何で……何で野郎二人でこんなオシャレカフェに来なきゃいけねーンだって話じゃボケェッ!!」
オレはお前のパフェ食う姿を延々と眺める為に来てンのか!!と、陸也はテーブルを思いっきり叩いた。
「陸也、少し煩い」
「じゃかしいわっ!」
いや、だからお前のが喧しいって。そう言うも陸也はスルーして頭を抱える。
「大体! こう言うのって普通女の子と来ねェ!? つーか、日谷呼べよ! アイツなら大喜びだろうが!」
「宙は後が怖いから」
前にメイド服を着せようとしてきた彼女の凶行が今でも鮮明に思い出せて背筋が寒くなる。気を紛らわせようとパフェを頬張った。因みにこのパフェ、先日皆川が渡してきた無料サービス券の物だ。意外だと思われるかも知れないが、僕は甘い物は結構好きな方だ。
また、先程話題に出た宙もかなりのスウィーツ好きで、誘えば喜んで来るだろう。
本当は僕だって野郎二人で来るよりは可愛い子と来たい。けれど宙は怖いし、皆川は一応目の前のこの男の彼女なので誘うのは気が引ける上にそもそもコレを渡してきた時点で行く気はないのだろう。だからと言って他に親しい女の子の友達なんているわけないし、一人で来るには相当な勇気が必要となる為、チキンな僕には無理だ。そうなると必然的に陸也を誘うしかなくなる。文句を言いつつもこうやって何だかんだと付き合ってくれるのだから、ある意味的確な人選だったと思う。
「お待たせいたしました。アイスココアとホットコーヒーです」
白いレースのエプロンを着けたウエイトレスさんが僕らのいるテーブルの上にそれぞれの飲み物を置く。僕はすぐに砂糖をココアに入れた。陸也は一頻り怒鳴って満足した(?)のか、席についてコーヒーを手に取ってそのまま飲み始めた。
「何も入れないのか?」
「オレはお前と違って甘い物が苦手なんだよ」
知ってるだろ、と言われて頷く。そう言えばそうだった。こいつはチョコとかケーキとか、そう言う類の物は好きではない。すっかり忘れていた事に少しだけ申し訳なくなった。これじゃあ本当に僕がパフェを食べるのを見に来ているだけのようなものだ。何だか居たたまれなくて、砂糖を手に取り再びココアに入れる。
「何か、悪い事をしたな」
「別に…………お前が来たかったンだろ? 普段じゃなかなかこう言うのって食えねーからな。満足してンなら、それで良いし」
だから気にするなよ、と言って再びコーヒーを啜る。僕は心の中で礼を述べて砂糖をココアに入れた……が、それを見た陸也が待ったをかけた。
「お前、それ何本目?」
「三本目だけど」
そう言うと盛大な溜め息を吐かれた。悪かったな、甘党で。
ティースプーンで掻き混ぜて口に含むと当然ながら甘い味が広がった。うん、幸せだ。一方、陸也は少し顔を青くして胸元を押さえている。
「胸焼けが……」
「あれー? 聖ちゃんに坂月君じゃーん。こんな所で何してんだー?」
何だかあまり聞きたくない声にココアを飲む手が止まった。
「日谷? お前こそ何だその格好」
陸也の言葉にゆっくりと宙の方を向くと、彼女は先程のウエイトレスと同じ格好で目の前に立っていた。宙は黙っていればそこそこ可愛い方だと思う。現に今の格好も素直に似合っている。いつも余計な事さえしなければ、きっともっとモテる事だろう。まぁ、モテようがモテなかろうが彼女は差して気にしないだろうが…………いや、今はそれよりも
……皆川、図ったな。
「何って、ウエイトレス。あたしはここでバイトしてるんだよ。てか、聖ちゃんの食べてるそれってアレでしょ。今超人気のスペシャルチョコサンデー。それ美味しいよね!」
「そう、だね……」
思わず目を逸らしてそう返すと、宙は「あ、そうだ!」と言って肩を掴んできた。
「丁度良いから少し待っててよ。あとで聖ちゃんに是非着て欲しい物があるんだー♪」
「え゙」
「じゃ、すぐに上がって来るから!」
そう言うや直ぐ様宙はレジの方へと歩いていった。恐らくそこにいる店長と思わしき人に上がる旨を話しに行く為だろう。
どうしよう、と陸也を見ると同情するような視線で返された。
「ま、ドンマイ」
帰って良いですか? 僕は切実にそう思った。
END