A requiem to give to you
- 破滅を望む者(3/4) -


それにヴァンはフッと笑った。それが答えでもあった。



「己の計画の為であれば、使えるモノは例え世界を隔てたモノだろうとも構わず使う、と言う事か。残忍だねぇ」



まぁ、それ普通に黙認している僕も人の事は言えないんだけど。クツクツと面白そうに笑いながらイオンは言うが、その瞳の奥には暗く歪んだ感情が伺えた。

彼は全てに絶望を抱いている。預言により導師になる事を定められ、生まれて直ぐにダアトへと連れて来られた。それから即位する8つの歳まで、家族との連絡も一切断たれた彼はただひたすら導師になる為に必要な知識と技術を身に付けてきた。

導師には全ての預言を知る権利が得られる。それは秘預言【クローズド・スコア】も然りで、導師となった彼は直ぐに数多くの人の誕生から死、世界に起こる様々な現象に至るまでの全てを譜石を手に取り見ていた。

そして見てしまったのだ。









『ND2016。若き導師、難病を患い死す』









それから彼は全てに興味をなくし、世界を憎み呪った。人は彼を今日の平和の象徴と呼ぶ。その彼が今、この世界を破滅させん事を考えているなど誰が知るだろうか。始祖ユリアとその預言を崇め、信仰とする教団のトップがその預言を消し去ろうとしているなど……。

彼の命の灯火はあと一月とない内に消えてしまうだろう。教団としては、今導師を空位とするわけにはいかない。大詠師はいなくなる彼の代わりにレプリカでの代行を立てる提案を出した。そして彼は承諾した。勿論、そこに互いの思惑がないわけじゃない。大詠師は形だけの導師に力がないのを良い事に教団の掌握を図るだろう。また導師は預言のない存在であるレプリカと言う名の"呪い"を世界を壊す糧とするだろう。

現に今、彼のレプリカの五番目が彼と志を同じにするヴァンの手中にある。五番目の彼は現在導師としての教育を受けている七番目の彼よりもよりこちら側に近い。導師イオンと言う存在の死の預言のせいで自分が生まれ、そして他者から望まれず火山へと放り出された事への理不尽な悲しみは、五番目の中で確実に憎しみへと変わりつつある。



(私がそう……仕向けたのだがな)



この導師にしてもそうだ。先程彼自身が言った通り、使えるモノは何でも使う。彼の導師としての権力、知識はヴァンにとってこれ程役に立つ物はそうない。権力は今の地位の確立と安定の為に、知識は数年後に予定する"計画"の為に必ず必要となる。その知識を生かす為の存在が手に入ったのは本当に幸運だったと言えよう。

計画への下準備も既に整えてある。あとは手駒をどこまで揃えられるか、だ。実力のある者は出来るだけ欲しい。既に騎士団の実力者の何人かは引き入れてある。彼らは次の人事異動でそれぞれ幹部職についてもらおうと考えている。

問題はあの異世界の者たちだ。既に他の世界へと渡った事があるからなのか、経験不足ではあるものの戦闘のセンスはある。訓練すればそれこそ幹部格の実力までいけるだろう。少年の方はいまいちわからないが、あの肝の座り様はまず普通でないのは確かだ。



(それにアレはもしかしたら……)


「……───ヴァン、ちょっと聞いてるのかい?」



不機嫌そうなイオンの声にふと我に返る。どうやら思考の淵に沈みすぎていたらしい。



「申し訳ありません。……それで、何でしたかな?」



苦笑してそう返すとイオンは呆れたように溜め息を吐きつつ口を開いた。



「だから、例の計画が漏れている事についてだよ。要するに裏切り者が出ているんだろう?」


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