A requiem to give to you
- 水面下の警鐘(1/5) -



ダアトを発ったヒース達が次に向かうのは音機関都市であるベルケンドだった。そこには障気について研究をしているスピノザ達がいる。皮肉だが、クリフが遺した預言にも記されていた通り、現状の打破にはそこへ向かうのが唯一と言っても良いのだろう。

外殻大地と言う蓋がない分暗くはないが、それでも障気によってすっかりと様変わりした世界をアルビオールの窓から見下ろしながら、ヒースはぼんやりと考えていた。



(障気……か。結局、グレイの言っていた通り何の解決にもならなかったな。やっぱり蓋をして押し込めるには無理があったか)



しかしそれでも想定の何倍も早く打ち破られてしまったのだろう。根本的な解決を考えるどころか、ゆっくりと安堵をする時間さえもさせてくれなかったのかも知れない。

あれだけ命懸けで行った作業だと言うのに、やはりやる瀬なさはある。勿論、無駄な時間を過ごしたと言うのは決してないのだが、それでもそんな感情が先出てしまうのは最早仕方がない。



(根本を解決するには、障気を消すのが一番だ。けど問題は、どうやって消すのかってところだけど……)



プラネットストーム、外殻大地の上昇計画を発案、そして発明した古代の人間達でも解決出来なかった問題。そもそも外殻大地が出来たのだって障気から逃れる為なのだから、当然消す方法なんて当時だってあるわけはなかった筈だ。

そこまで考えて、ふとある事を思い出す。



(消す……? って言うか、前になんか似たような現象を見た事がなかったか……?)



地震、障気、第七音素、打ち消す………………──────あ



(そう言えば、前にルークがヴァンに……)

「少し、聞いても良いですか?」



唐突にジェイドのそんな声に思考が途切れる。声の方を見れば、ジェイドはグレイに視線を向けていた。



「何だよ?」



グレイがそう聞き返すとジェイドは少しだけ間を入れた後、己の………そして他の者達も持っていた疑問を口にした。



「貴方の能力の事です。貴方のその力には記憶の読み取りと操作だけでなく、未来も見えるのですか?」

「………どうだろうな。正直なところ、オレにもその辺はよくわかってねーンだよ」



そう言ってグレイは肩を竦める。それは嘘を吐いて誤魔化していると言うわけではなく、恐らく本当にわからないのだろう。



「前にも言ったけど、断片的に【夢】で見るんだ」

「それって預言なの?」



タリスの問いにグレイははっきりと否定した。



「違う。少なくとも、オレがヴァンやトゥナロから聞いていた預言の内容とは違った。………けど、オレが見たこの世界の未来っぽい時間も、今のこの”軸”とも違うものだった」

「軸………か。つまり、今僕達がいる時間とは異なる世界線って事か?」

「パラレルワールド的な?」



思い至った結論を口にすればレジウィーダも続ける。それにルークやティア達は首を傾げていたが、ジェイドやガイは何となく意味がわかったのか、「なるほど」と呟いていた。



「パラレルワールドってか、寧ろそっちのが正史なんじゃねーか?」

「どうしてそう思うの?」

「オレが見たその時間にはいなかったんだよ……………オールドラントにとっての異世界に関連する奴らが、な」



グレイ、レジウィーダ、タリス、そしてヒースは勿論。グレイの半身であるトゥナロやレジウィーダのレプリカであるフィリアムだってそこにはいない。



「あとは、それこそトゥナロが関係しているであろうクリフの存在もなかったな」



オリジナルのイオンは今のイオンやシンクの大元なだけあり、当然存在はしていたのだろう。しかしある意味生まれ変わりのような存在でもあるクリフがいないと言うのは、彼と言う存在は異世界の者達との関わりによって齎された奇跡だったと言えよう。

グレイがそこまで説明するとアニスは途端に暗い顔になり、恐る恐る口を開いた。



「じゃ、じゃあ……もしもクリフがいなかったら…………やっぱりイオン様は、」

「惑星預言を詠んだ影響で消えていたな。あと、どうせ向こうとは違う道を進んでいるから言うけど、アリエッタとも完全に決裂したンだろうかな…………最後にはお前らの手で引導を渡していた」

「……………っ」



アニスはグッと唇を噛み、両手で服の裾を握り締める。そんな彼女を見ながら、ルークも悲しげに俯く。



「良い、のかはわからねぇけど、お前らの存在って……やっぱ結構大きかったんだな」

「さあな。確かにシンクがこちら側についたり、ディストがマルクトで大人しくしていたりってところはあるけど………シルフィナーレについては完全にこっち側が原因で動いているのを考えると、大手を振って喜べる事でもないと思うぞ」



それはそうだ、とレジウィーダ、タリス達と共に頷く。ジェイドも眼鏡の艦橋を押し上げながら「……まぁ、他にも色々と気になる点はありますが」と口を開いた。



「別の世界線と比べていてもそれこそキリがないので、それはこの辺で良いでしょう。問題は………この世界線で起きている今の現状です」



あくまでも解決のヒントを得る目的で聞きますが、と前置きをしてジェイドは改めてグレイに問う。



「貴方が見た世界線でも障気が世界を覆う現象は起きていましたか? そして、」



その現象は解決には至りましたか?

その問いに皆が息を呑んでグレイを見る。グレイは一度目線を下げ、それからゆっくりと頷いた。
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