A requiem to give to you
- 水面下の警鐘(5/5) -



シルフィナーレか、レプリカネビリムか、あるいは可能性は限りなく低いが………トゥナロとかだろうか。何にしても、アッシュがロニール雪山に向かっている可能性が高いのなら、彼を追うのも選択肢としては無しではないだろう。



「ねぇ、皆」



と、声をあげれば皆はこちらを向く。



「アッシュを追いかけない? 敵側もアッシュを探してるみたいだし、こっちも色々と話を聞きたいんなら、先に見つけてとっ捕まえるのも良いと思うんだけど」



先のグレイの《夢》の話からしても、アッシュも関わってくるのだろう。なら、どの道彼を探すのが先決なのだと思う。

そう思って言えば、ガイも「そうだな」と頷いた。



「正直、そろそろ情報も手詰まりだし……あいつの持ってる情報も欲しいところだよな」

「そうですわね。それに、心配ですわ」



ナタリアも同意し、そのままルークを見る。その視線を受けてルークは戸惑いを見せるが、タリスが「あなたはどうしたい?」と問いかけた事で、やがて彼も結論を出し頷いた。



「取り敢えず、バチカルは後回しにしてアッシュを追いかけよう」



一先ず次の目的が決まり、スピノザに礼を告げて研究室を後にする。



「………………」



先を歩く仲間達、後ろの方ではジェイドとルークがゆっくりと歩いている。そしてその間では………グレイが何やら黙って考え込んでいた。



「………………?」



邪魔するのも悪いと思い、こちらも黙って見つめていると視線に気付いたのかグレイは「ン?」と言って目を合わせてきた。



「なんだよ?」

「何って言うか………今度は何を考え込んでるんだろうなーって思っただけ」



素直に思った事を口にしてみる。今までであれば「見てンじゃねーよ」くらい返ってきているところだが、最近の彼は妙に態度が軟化しつつある。今回も案の定特に文句を言われることもなく、何故か少しだけ困ったような顔をすると、小さく後ろの二人に一瞥を入れてから声を顰めてあのよ、と言った。



「お前やタリスはいなかったから知らねーと思うけど」

「うん」

「前に一度障気中和の話が出た事があンだよ」

「あ、そうなんだ」

「おう。……ただ、」



そこまで言って彼は言い淀む。しかし直ぐにまた言葉を紡いだ。



「ジェイドが言うには、アクゼリュスと同等数以上の犠牲が出るって言われてな」

「……………」



考えてみればおかしい話ではない。そもそも障気は星全体を覆っているのだ。方法こそわからないが、寧ろ数千人の犠牲で済むのかどうかだってわからない。それこそ数万人かも知れない。しかもそれはただの人間ってわけでもないのだろう。



「超振動で中和が出来るかもって言ってたよね。て事は、エネルギー源は間違いなく第七音素だとは思うけど……」



つまりそれって……

こちらの言いたい事がわかったのだろう。グレイは苦虫を噛み潰したように顔を顰めると小さく頷いた。



「そのエネルギーに必要となる犠牲ってのが、第七音──────」



















「貴方達、今はそんな話をしている時ではありませんよ」

「「!!?」」



直ぐ背後からのそんな声に二人揃って肩を跳ねさせる。慌てて振り返ればジェイドが立っていたのだが、珍しくその表情には笑顔がない。



「ジェ、ジェイド君……」

「………ンだよ、怒ってるのか?」



それぞれ戸惑いながらも反応を返せば、彼は「そうではありません」と首を振った。



「………無駄に頭の回転が良いのも困りものですね」

「え? なんて?」



上手く聞き取れずに聞き返すが、ジェイドは肩を竦めるだけだった。



「こんな事態なのです。あまり憶測だけで物を考えない方が良い、と思っただけですよ………特に、今下手な事をルークに言えば、余計な事をしでかしそうですからね」



それこそ、アクゼリュスの時のようにね

そう付け加えられた言葉にグレイの表情に怒りが浮かんだが、彼が何かを言い出す前にレジウィーダが二人の間に無理矢理入り込んだ。



「あまり意地悪な事を言わんでよ。そんな事思ってないってジェイド自身が一番わかってるだろ?」

「………………」

「確かに、専門家でもないあたし達だけで話をしたところで憶測の域はどうしたって出ないよ。どの道、アッシュからの話も聞かなきゃだし、これ以上混乱するような発言は避けるからさ…………心配させてごめんね」



苦笑混じりに謝る。背後のグレイも、そして目の前のジェイドも黙ったままだったが、やがてジェイドの方が先に口を開いた。



「別に心配をしているわけではありませんよ。別ベクトルでの心配はありますが………まぁ、取り敢えずは良いでしょう」



そう言ったジェイドの表情にいつもの笑みが戻る。それから彼は自分達の更に後ろからトボトボと落ち込んだように歩くルークを見て、それから肩を竦めた。



「貴女の言う通り、まずはアッシュから話を聞くべきです。ローレライの鍵の事も詳しく知りたいですし、どの道必要になってくるでしょうから」



そうしてジェイドはレジウィーダ達を追い抜かすと他の仲間達の方へと向かって行った。そんな彼の背を見送り、それからグレイを見ると彼は不貞腐れたように口をへの字に曲げていた。



「けっ、天邪鬼野郎が」

「それ、アンタにだけは言われたくない言葉だな」



そう言うと「お前もな」と盛大なブーメランが返ってきたので、取り敢えず直ぐ近くまで来ていたルークに助けを求める為に彼の腹筋目掛けて頭から突っ込んで行った。




















そして盛大に二人でひっくり返って怒られたのはここだけの話である。











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