A requiem to give to you
- 水面下の警鐘(4/5) -



それからレジウィーダとアニスは第一音機関研究所を訪れた。流石に何回も来ているアニスはわかっているようで、彼女について行けば迷わず目的の人物らのいるであろう部屋へと辿り着いたのだった。



「お待たせ!」



仲間達の姿を見つけて声をかければルーク達が振り返った。



「おかえり」

「ただいま。イオン君とシンクには伝えてきたよ。二人ともやっぱり知らなかったみたいだけど、キムラスカとマルクトの両陛下には伝えておいてくれるって」

「それは助かるな。連絡してくれてありがとうな」



ガイにお礼を言われ、レジウィーダは首を振る。



「これくらい大した事じゃないよ。寧ろこう言う時ほど頼ってくれるからこっちもありがたいよ」



それで、とレジウィーダは部屋を見渡して首を傾げる。



「スピノザさん達は?」



部屋にはスピノザはおろか、ヘンケン達の姿すらない。それにアニスも気が付き同じように首を傾げているとジェイドが説明してくれた。



「少し席を外しているみたいですよ。声をかけた時にはもう少しかかるとの事だったので、先に医務室に行ってきたところだったんです」



ジェイドがそう言うと、ナタリアが目を輝かせて口を開いた。



「そうですわ! 二人にも朗報ですのよ」

「なになに?」

「実は、ティアを苦しめていた障気が完全になくなっていましたの!」



どうやらスピノザ達を待つ間に医務室でティアが検査を受けていたらしい。いくつかの検査を終えた結果は、全て異常なしとの事だった。

そんな良いニュースにアニスと二人素直に喜びが浮かんだ。



「そうなんだ!」

「良かったねティアちゃん」

「ええ、二人にも心配をかけてごめんなさい。でも、これからはまた全力で頑張るから」



そう言ったティアに「ほどほどにね」と告げたところで、奥の部屋からスピノザが現れた。



「すまん、待たせたの!」



ヨレヨレの白衣に袖を通した彼は、けれど見た目とは裏腹にとても活き活きとした様子で皆を出迎えた。



「あれ? ヘンケンさん達はいないのか?」

「ああ、二人はまだ手が離せんのじゃ。何せ世界がこんなんじゃからな……わしの方も漸く時間を作ったところだったんじゃ」

「そっか、悪いことしたな」



ルークが申し訳なさそうに言えば、スピノザは「とんでもない」と笑った。



「寧ろお前さん達が来てくれた事で一息吐けたんじゃ。……まぁ、話す内容は全く明るくはないんじゃがの」



そう言って苦笑したスピノザはそれにしても、と溜め息を吐いた。



「大変な事になってしまったな」

「やっぱり、タルタロスでは抑えきれない程に地核の振動が激しくなってたのか?」



そう切り出したガイの言葉にスピノザは頷く。



「うむ……このままでは再び大地は液状化するじゃろう」



やはり先日のジェイドの推測通りだった。今更驚きはしないが、それでも落胆は隠し切れない。



「やっぱ、根本的に障気自体をなんとかする必要があるって事だよな」

「それなんじゃが、ルークよ」



と、スピノザはルークを見た。



「お前さんの超振動はどうじゃろうか?」



え、と目を丸くするルークにヒースもそう言えばさ、と会話に入ってきた。



「前に、ヴァンから超振動での障気の中和が出来るって話をされたらしいな」

「あ、ああ………でもそれは、ヴァン師匠が俺にアクゼリュスで超振動を使わせる為の口実ってだけで、そんな事は出来ないんじゃないか?」



トラウマを刺激されるのか、少しだけ苦しげにそう言ったルークにスピノザが再び口を開いた。



「わしは超振動の専門ではないが、理論的には可能じゃと思うぞ。そもそも超振動には物質を原始レベルにまで分解する力がある。アクゼリュス消滅時の超振動のデータからもかなりの数字が算出されたしの」

「あくまでも理論値でしかない。アクゼリュスの時とは規模が違いますよ」



ジェイドが小さく息を吐きながら首を振る。それから話題を変えるように「それよりも」と言った。



「ここに来る前に他の研究者の方々の話が聞こえたのですが、私達の前にも先客がいたのですか?」

(? ジェイド君……?)



あまりにも彼らしくない話の逸らし方にレジウィーダは一瞬だけ違和感を覚える。しかしそれを追求するかを考える間もなくスピノザが思い出したように手を叩いた。



「ああ、そう言えばさっきアッシュも来たんじゃよ」

「アッシュが!?」



彼の名前に一早く反応したのはナタリアだった。彼女は前出るとそのまま勢い良くスピノザに詰め寄った。



「彼は今どこに!?」

「あ、ああ……ここで測定していたセフィロトの情報を食い入るように見ていたが……あれは確かロニール雪山の情報じゃったかな」

「ロニール雪山……」



小さく呟いたのはメルビンだったが、幸いスピノザの耳には入らなかった。

彼女が地縛霊となって動けなくなっていた場所。そして彼女自身が亡くなった場所でもあるそこには、きっと色々と思う所があるのだろう。



(メルビンさんだけじゃない。あそこは……あたしにとっても因果のある。それに………)



脳裏に浮かぶのは星のような金色。前に本人から聞いた話では、彼自身が一度死んだ場所でもある。



(てか、ロニール雪山のセフィロトに何かが起きてるって事かな? なら、もしかしたら……誰かしらはいるのかも……?)

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