A requiem to give to you- 水面下の警鐘(3/5) -
「レプリカ情報を抜かれた人は死んじまうのか?」
ルークが息を呑みながら訊くと、「そう言う被験者もいる」とジェイドは返した。
「必ずしも命を落とすわけでもありません。アッシュのようにね」
「何にしても、本当にレプリカ情報を抜いている奴らがいるのなら止めないとだな」
ヒースの言葉にタリスも頷く。
「そうねぇ。……ただ、これでどうしてあの時にレプリカがいたのかの理由はわかったわね」
「あの時って?」
レジウィーダが再び首を傾げる。そう言えば彼女(とグレイ)は障気復活後にザレッホ火山で合流する前の事は知らなかったのだと思い出す。
ティアがあのね、と申し訳なさそうに口を開く。
「ごめんなさい。あの時はそれどころじゃなくちゃんと説明できてなかったわよね。実は、グレイに言われてザレッホ火山に向かう途中でレプリカを見たのよ」
「みんなお化けみたいな怖い目をしていたですの。たくさんいたですの」
「ああ、まるでこちらの行手を塞ぐように現れたもんだから何事かと思ったよ。どう見ても一般人だし、武装をしてるわけでもなかったから迂闊に武器を向けるわけにもいかなかったからな」
ティアに続いてミュウ、ガイもそう言い、それに更にジェイドが眼鏡の艦橋を押し上げた。
「実際、こちらの妨害目的で寄越されたのだと思いますよ。でなければ、そんなタイミング良く来ないでしょう」
「そっか……でも、それなら余計に早いとこ犯人を見つけて辞めさせないとだね」
「取り敢えず、研究所で障気についての話を聞いてからその旅の預言士と言うのを探しましょう」
タリスの言葉に皆は頷く。それからグレイはレジウィーダを向いて口を開いた。
「念の為、イオンやシンク達に連絡して預言士について聞いてみても良いかもな」
「じゃあ、宿屋で伝書鳩だね」
「いや、実はあいつらにオレの携帯貸してるからお前が繋げてくれりゃあ連絡出来るンだわ」
いつの間に……と皆の気持ちが一つになったところでジェイドが「では」とレジウィーダを見た。
「レジウィーダはイオン様に連絡を取っておいてもらえますか? その間に私達は第一音機関研究所へ行ってきます」
「勿論! 終わったら直ぐに合流するよ」
「あ、それならあたしもレジウィーダと一緒にいるよ。今はあまり一人ずつにならない方が良いかもだし」
アニスがそう申し出ると、レジウィーダは嬉しそうに笑った。
「ありがとう! アニスが一緒なら心強いよ♪」
「ま、当然だよね。今のアニスちゃんは怖い物なんてないよ!」
そんな二人に苦笑を漏らしつつ、ルーク達は先に第一音機関研究所へ向かう事となった。
*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇
『旅の預言士にレプリカ……ですか』
「やっぱり心当たりとかはないよね?」
レジウィーダの言葉に電話の液晶の先に映るイオンは申し訳なさそうに眉を下げた。
『すみません。正直な話、貴女達から聞くまでその事態は全く知りませんでした』
「イオン様、謝らないで下さい。寧ろあたし達も今さっき知ったばかりですよぅ」
「うん。多分、近い内には各地に広まったんだろうけどさ……そもそもこの事はまだどこの国のトップだって知らないと思うよ」
アニスに続いてそう言うと、イオンと一緒に話を聞いていたらしいシンクの声が画面外から聞こえてきた。
『取り敢えず、キムラスカとマルクトからも住民達に各国で注意喚起してもらって少しでも被害を止めるしかないだろうね』
『そうですね……アニス、レジウィーダ。各国への連絡はこちらからしておきますので、貴女達は引き続き障気の件をお願いします』
「わかった。一応、預言士についてはこっちでも何かわかったらまた知らせるね」
よろしくお願いします、と頷いたイオンの言葉を最後に通話を終了する。暗くなった画面を見ながら溜め息を吐く。
「何だかなぁ……」
「ま、溜め息も出るよね。プラネットストーム活性化の話が出てから怒涛の展開続きだもん」
「はは、アニス達は特にそうだよねー」
て、言うか
「旅の預言士ってさ……………やっぱフィーナさんだと思う?」
ずっと思っていた疑問を口にすれば、アニスも「それしか考えられなくない?」と返す。
「フィーナって音律士だけど、確か預言士の資格も持ってた筈だし。………とは言っても、その旅の預言士自体あたし達の誰も見たわけじゃないから確実にそうだとも言えないけどさ」
「……うん」
それもそうだ。そもそも預言士が女性であるのかだってわからない。でも、違うと言う可能性だってないわけじゃない。
なら、もしも次に合間見えた時、いよいよ彼女と戦わなくてはならないと言う事なのだろう。
「………………」
「もう、しっかりしてよ!」
黙り込んだレジウィーダにアニスが強くその背を叩く。なかなかに小気味の良い音がして思わず前のめりになる。
「おおっ!?」
「らしくなさすぎだっちゅーの! ルークもそうだけど暗すぎだし、そもそも根暗は一人で十分なの!」
カビが生えるわ、と頬を膨らますアニスを呆然と見つめ、それから次第にその言葉の意味を理解して笑いが込み上げる。
「ふふ、ちょっとそれ酷すぎー。あたしにもルークにもアリエッタにも失礼やん」
「だって本当のことでしょ」
「……うぅ、言い返せないー……………でも、そうだね」
いつまでも立ち止まっている場合ではないのだ。
「ぐずぐずしてたらもっと大変な事になっちゃう、か」
「そうだよ。折角クリフが繋げてくれた可能性を潰すわけにはいかないでしょ。クリフの為にも、それから………アリエッタの為にもあたし達が進まなくちゃ!」
「アニス…………」
と、レジウィーダは彼女なりに一生懸命励ましてくれている目の前の少女に抱き着いた。それから気の抜ける笑みを浮かべると小さくお礼を告げる。
「えへへ、ありがと」
「このお代は高いわよ」
「姉御、そりゃねぇっすよ」
せめて出世払いで、と返せば「出世先ないじゃん」と至極真面目なツッコミが返ってきた。
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