A requiem to give to you
- 蘇る魔界(5/5) -



シンクの言葉の意図が分からずに一瞬間が開いたが、レジウィーダは己の思う事を素直に伝える。その言葉にシンクは真っ直ぐにこちらに視線を向けた。



「なら、もしもボクが死んだら、その時も悲しんでくれるの?」

「………どう言う事?」



やはり彼の意図が分からない。何故、今それを己に問うのか。レジウィーダは訝しげに目の前の深緑を見返すと、シンクは「良いからさ」とゆったりとこちらに近付いてくる。



「どうなの?」



今にも触れそうな距離で目の前に立ったシンクはレジウィーダを見下ろす。また少し身長の差が出たな、なんて頭の片隅に思考が走りつつも至って真剣な彼にレジウィーダはムッと口を尖らせた。



「理由によるけど、でも………君の前では絶対に悲しんでなんかやらない」

「………………」



まさかそんな答えが返ってくるとは思わなかったシンクは目を丸くして黙り込んだ。そうしていると本当にイオン達とよく似ている、と思わず笑いが漏れた。



「病気、不慮の事故、殉職……まぁ、色々とあるだろうけどさ。でも、そんなあっさりと死ぬような君じゃないよ」



だって、



「少なくとも、あたしが”ここ”にいる限りは………絶対に君を死なせない」

「………そんなの、それこそ確実じゃないさ」

「だとしても、だよ。まだまだ沢山の時間が、未来が君を待ってるんだ。それなのに、こんな所で中途半端に散らすのは違う。そんな脅威があるんなら、あたしが蹴散らすよ」



そう言うと、シンクは首を横に振った。



「それでも、ボクはレプリカで預言がない。でも、【イオン】の預言は存在している」



レプリカであるルークに、アッシュ《オリジナルルーク》の預言が適応された。つまりはシンクも、そして今のイオンにもそれが適応される可能性があると言いたいらしい。二年も前の話、で片付けても良いのかも知れないが、きっとそうではないのだろう。



「そう思うんだったら、尚更簡単だよ。そうならないようにすれば良いんだ」



本当は言う程簡単な事でないのはわかっている。でも、嘗てオリジナルイオンが患っていた病気も処置が早ければ治っていたかも知れないと本人が言っていた事からも、決して回避が出来ない訳じゃない。



「何もしなければ、そうなるかも知れないよ。でも原因がわかっていれば、いくらでも対処はできる筈だ」



況してや今は少しずつ預言遵守の思考から離れ始めている。良い事は受け入れ、悪い事は避ける。そんな選択が出来る世の中になろうとしているのだ。



「だからシンク。頼ってよ」



今の君には、君が生きる事を望む者が沢山いる。手を伸ばせば、取ってくれる人もいる。そう、今だから………堂々と出来るのだ。



「不安な事、心配な事があるんなら、皆で解決すれば良いじゃん。あたしじゃなくてもイオン君だって、アリエッタだって良い。他にも、ルーク達だって、きっと力になってくれるよ」



ね、と笑って彼を見れば、シンクは大きな溜め息を吐いた。



「…………はぁ。簡単に言ってくれるよ」



でも、



「ま、悪くはないかな」



ニヤリ、とシンクは悪戯に笑う。



「使える物は何でも使えって事でしょ? そう言うのは得意だから、そこまで言うならアンタもアイツらもとことん利用してやるから───















覚悟しててよね」

「あ、うん。………程々にね?」



何故か背筋がヒヤリとしたような感じがして、思わず頬が引き攣りながらもそう返してしまう。しかしシンクは特に気にした様子は見せずに踵を返して歩き出し、けれど途端に思い出したように足を止めると再びこちらを振り返って声を上げた。



「そう言えばグレイが来る気配ないけど、アイツに来る事は言ってないの?」

「言ってないって言うか、連絡がつかないからてっきり任務にでも出てるのかと思ってたんだけど」



でなければ、アニスが行った時点でイオン達と一緒に待っていただろうと思いそう返すと、シンクは途端に神妙な顔をした。



「………………」

「え、何かあった?」

「いや、そう言う事じゃないけど……………まさか、ね」

「???」



何か思い当たる事でもあるのかと問えばシンクは首を横に振る。



「こっちから呼び出すと時間かかるだろうし、取り敢えずアンタの方からもう一度連絡してみなよ」



その言葉にわかった、と頷いて能力を発動し、そして携帯電話で通話を試みる。



プルルルル……



プルルルル……



プルルルル……



「………うーん、やっぱり出ないや」



呼び出しのコール音がずっと鳴り続けるだけで、留守電サービスに移行するわけでもない。仕方なく通話を切ると、眉を寄せた。



「て言うかアイツ、マジで何してんの?」

「さあ? 今日は休みだったけど、朝からどこかへ行ってたってくらいしかわかんないや」

「じゃあまだ出先ってこと?」

「いや、昼過ぎくらいに帰ってきたみたいで一度会ったよ。でもそれっきり」



ただ、とシンクはそう言ってどこか遠い目をした。



「クリフが暇潰し相手を探してたってのは忠告したかな」

「そ、そっすか」



新たに上がった名前にどこはかとなく察しがついたような、つかないような。そんな微妙な気持ちになりながらも、きっとその内戻るだろうと密かに安堵した。

───そんな時だった。

















「…………?」

「? 何だ?」



ふと、感じた空気の澱み。どことなく息苦しいような、喉を燻るような………そんな感じがした。それはシンクも同様だったようで、二人して顔を顰めて空を仰き──────そして息を呑んだ。



「え、……どうして?」



空が、毒々しい紫色へと変わっていた。

見覚えがないわけがない。鉱山の街、そして初めて魔界へ降り立った時に見たあの絶望的な世界がまた……………蘇ったのだと嫌でも理解した瞬間だった。











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