A requiem to give to you- 蘇る魔界(4/5) -
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「ケホッ…………」
ダアトに到着し、商業区を通りながら教会を目指している最中、後ろの方を歩いていたティアが小さく咳き込む音が聞こえた。
「ティア、大丈夫ですの?」
どうやらナタリアも気付いたようで彼女に声をかけると、皆もまたそちらを振り返る。
「ええ、大丈夫。少し咽せただけよ」
そう言った彼女はこちらに心配かけまいと微笑んだ。しかしその顔色は決して良いとは言えず、よく見れば脂汗が浮かんでいるのもわかった。それにルークが心配を露わに駆け寄る。
「そんな事言ってお前、凄く体調が悪そうだぞ?」
「本当に大丈夫……───うっ」
「ティアちゃん!?」
言葉途中にティアの身体がフラつき、レジウィーダは慌てて背後から支える。近付いた事で彼女が相当無理をしていた事を嫌でも理解してしまった。
「取り敢えず少し休もうよ。このままじゃイオン君に会う前に倒れちゃうよ」
「でも、あまりのんびりもしていられないもの。だから……大丈夫」
ありがとう、と小さく礼を告げてレジウィーダから離れるティアに皆は顔を見合わせる。それからアニスが声を上げた。
「あたし、イオン様を呼んでくる!」
一足先に教会へと駆け出したアニスを見送り、ルークは再度ティアを見た。
「とにかく無理はしないでゆっくり進もう」
「そうだな。アニスが休むところを用意してくれるとは思うから、そこまでは頑張れそうか?」
ガイが問うとティアは申し訳なさそうに「わかったわ」と頷いた。
「………妙ですね」
「?」
「何が?」
ジェイドが小さく呟くのを聞き、ヒースとタリスが首を傾げた。そんな二人にジェイドは眼鏡の奥の瞳を細める。
「障気蝕害の症状だとは思いますが、今は障気は出ていないからこれ以上の悪化はない筈です。それに薬で症状は抑えられるし、例え効果が切れたとしてもそこまで顔色が悪くなるような事はなりません」
「それってつまり、症状が悪化しているって事かしら」
「どうでしょう。ですが、何かしら体に負荷がかかっているのかも知れません」
「ただでさえ本来なら死んでてもおかしくない量の障気を吸ってたんだ。風邪の一つだって今の彼女には辛いだろうね」
ジェイドに続いて言ったヒースの言葉を聞きながら、タリスはナタリアやレジウィーダに支えられながら先を歩くティアを凝視する。
初めは何もなかったが、次第に彼女の体を覆い尽くしてしまうような黒い靄が見え始めギョッとした。
「え………」
「タリス、また何か見えたのか?」
ヒースに問われるがそれには答えずにじっと見続けていると、靄は直ぐに見えなくなり、視界はまた元通りになった。
「……………」
まるで彼女を蝕むかのように包み込むあの靄は何か。前にも偶に見えていたモノよりも確実に大きくなっている。このままではそう遠くない未来にあの靄はティアを飲み込んでしまう、それは………察するに容易かった。
(大佐さんの言う通り、障気は地核に封じているから障気蝕害の影響は受けにくくなっている。それでもティアのあの症状が悪化によるモノなのだとしたら………)
フィーナが地核にいる事もあってか、今後も障気が出ないと言うのも絶対ではなくなってしまった。
(もしかしたら、もう───)
「タリス」
ヒースに名前を呼ばれてハッとする。つい、考え込んでしまったようだ……とタリスは彼を振り返り苦笑した。
「ごめんなさい。ちょっと色々と考えちゃって……」
「君の不安は最もだけどね。でも、今ここで一人で考え込んだところでどうにもならないよ」
だから出来る事からやろう。そう言ったヒースの言葉に、今はただ頷くしかなかった。
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教会に着くと直ぐにイオンが出迎えてくれた。側にはアニスの他にもシンクとアリエッタもおり、二人との再会の挨拶もそこそこに事情を把握していたイオンによってティアは直ぐに彼の部屋へと促された…………とは言っても、全員が行くと落ち着いて診れないだろうと言うことで部屋にはイオンとティア、それからジェイドとルークを残してあとは自由に教会内で過ごす事となった。
レジウィーダは教会の裏庭へと来ていた。最後に来たのは一ヶ月前の、イオンへと退職届を出す直前だった。
「これ、もしかしてだけど………アイツの墓だったりする?」
背後から前を覗き込んでそう言ったのはシンクだ。彼はレジウィーダが一人でフラリと立ち去ったのに気付きついて来ていたのだった。シンクは目の前のお世辞にも導師の地位にいた者が眠るには不相応なそれに微妙な顔をしていた。
「まぁ、事情が事情だったからね。お墓は作らないって言ってたけど、でもやっぱりイオンと今のイオン君は同じだとは思えなくて………あまりやりたくはなかったんだけど、あの時ばかりはヴァンに無理言って頼んだんだよね」
「ふーん、それで出来たのがコレ……ね。導師だなんて輝かしい地位にいても墓一つまともに作ってもらえないなんて、実に哀れだよね」
「そう言わないでよ。それにお墓だって、いずれはちゃんと作ってもらおうとは思ってるんだ。本人は望まないかも知れないけどさ、でもちゃんとあの子がいたって跡は残しておいて欲しいんだ。多分、イオン君もアリエッタもそれは反対しないと思うんだけど………君はどう?」
「どうって……」
問い掛ければシンクは一瞬だけ目を瞠るも、直ぐに目線を下げて考え出す。
シンクとオリジナルイオンの間の確執を知っているが故に、彼が直ぐに頷けないのもわかってはいる。結局、ちゃんと仲直りをしたと言う話も聞いていないし、シンクとしても未だに彼を恨んでいる可能性だってある。
「まぁ、それはボクには関係のない事だし、好きにやれば良いんじゃない?」
そう言って肩を竦められ、レジウィーダは目を丸くする。取り敢えずOK、と言う事で良いのだろうか。そんな事を思ってると、シンクは「それよりもさ」と口を開いた。
「アンタって、アイツが死んだ時………悲しんだりした?」
「? そりゃあ、ね。向こうはわからないけど、あたしは友達だと思ってたし、その友達ともう二度と会えなくなるって言うのは………やっぱり悲しいよ」
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