A requiem to give to you
- 再誕を謳う詩・後編(10/12) -



一通り話し終えたクリフは、話続きで乾いた喉を潤すようにカップに口をつけた。入れ始めた時は湯気を上げていたお茶はすっかりと冷めてしまったが、それでも今の彼には丁度良いくらいかも知れない。そんな彼の向かい側で相槌も入れずに静かに話を聞いていたグレイは、座っていたソファの背凭れに体重をかけ直しながら一つ息を吐いた。



「まぁ、色々と突っ込みたいところはあるけど………取り敢えず、あいつがここにいた経緯は分かった」



けどよ、とグレイは続ける。



「ダアトを追われた後のトゥナロが死んだって情報はどこから来たんだ? 流石に能力で記憶の改竄は出来なかった筈だけど、他に誰か情報操作でもした奴がいたのかよ?」



それこそ、話の中で出てきた女性とか。そう思って問うが、クリフは首を振って否定した。



「死体は見つからなかったそうだよ。ただ、当時彼の討伐を担当した者の一人がトゥナロの遺品を持ち帰ってきたんだ。報告を受けたのは確かヴァンだったけど、報告者は共に任務に赴いていた相方の犠牲と引き換えに確かに殺した、と言っていたそうだ」

「報告者、ねェ」



グレイの脳裏には一人の女性の顔が浮かんでいた。それは、



「その報告者ってのは、シルフィナーレか」

「流石に気付くよね」



クリフは頷く。



「今までの意味深な発言からして、そうかなとは思っていた」



初めてシルフィナーレと出会った船の上、アクゼリュス、そして………シェリダン港。彼女の己やトゥナロに関する発言には度々違和感を覚えていた。しかし今のクリフの話を聞き、それが改めて確信へと変わっただけの事だった。

クリフはそんなグレイの言葉にそう、と小さく返し、それから肩を竦めた。



「でも、その後からレプリカの話やら何やらも相まって徐々にアイツの存在自体を皆が忘れて行ってしまったけどね。それに関してはトゥナロの能力も関連してたんだとは思うけど」

「だろうな。じゃなかったらお前やヴァンは、もう少しオレに何かしらアクションの一つでもあっただろうし………………あ」



そう言えば、と思い出す。



「そのトゥナロの能力についてだけど、多分シルフィナーレは対象外だったっぽいぞ」

「何だって?」



クリフが訝しげに眉を上げる。そんな彼に正確には、と補足を入れつつも続ける。



「対象外ってか、効果がないって感じか。ヴァンとかはトゥナロを見て思い出したって反応をしてたけど、シルフィナーレは最初から認知してたっぽいし、何より本人が「貴方の能力は効きません」とか言ってたからな」



あの時はちゃんと考える余裕がなかったが、今になって思えばわかる。それと同時に、一つの最悪な可能性すらも出てきているのだ。



「レジウィーダから聞いた話だと、シルフィナーレとその姉ってのは地球に行ったことがあるらしいし、異世界を渡るきっかけがあいつの死だって言うンなら、納得もいく」



鍵はこの世界にあった。鍵には坂月 陸也のみが扱える為の呪い【まじない】がなされている。更に言うと、扱う為には当然、それに見合う力が必要だ。



(今ならわかる。鍵を扱う力ってのは………龍脈の力ってやつだ)



何故、己にそんな力があったのかは未だにわからないが、しかしでなければそんな大層な物を扱うには身の負担が大き過ぎる。



「シルフィナーレ達はトゥナロを殺した際に、あいつの持っていた力の一部を手に入れていたンじゃねーか?」



だからトゥナロの能力の効果は受けないし、そして何より………地下牢でヴァンが言っていた事の辻褄も合う。

クリフは再度カップの中のお茶を飲み、それから冷静に口を開いた。



「もし、その話が本当だとしたら、フィリアムをあんな風にしたのはシルフィナーレって事になるね…………それと、」

「「本来のこの世界の未来を知っている可能性がある」」



彼の続けた言葉に、グレイも同じように言葉を重ねる。



「けど、シルフィナーレがその未来を知ったところで、あの女がそれをどう使うかはわからねーな」



そもそも、ヴァンの成そうとした計画は彼女の目的ではない。断片的に見てきた未来では、ヴァンは今のように捕まってはいないし、六神将だって皆ルーク達の敵であった。そして多くの犠牲が出て、ヴァンも六神将も皆………最後は散っていった。

六神将やヴァンだけじゃない。犠牲者の中には、旅の仲間の一人で上司でもあるあの若葉色の少年もいたのだ。

そんな事を思っていると、クリフが「て言うかさ」話し出した。



「シルフィナーレがお前やトゥナロと同じ力を持っている事でまずいのは『未来を知っている』事よりも、『他人の能力を奪える』って事じゃない?」

「違いねェな」



シルフィナーレはレジウィーダやフィリアムの持つ力を欲している。初めはフィリアムを使ってレジウィーダの持つ力を彼に移す事で実践しようとしていたが、もしも本当にシルフィナーレ自身に能力を得る術があるのだとしたら、二人から奪えば良い話になる。



「そうなるともしかしたら、既にフィリアムの能力が奪われている可能性もあるのか」

「かも知れないね」



だとすれば、能力を奪う条件は何も”対象を殺す”事に留まらない。触れるだけなのか、あるいは音素や細胞、または血液の摂取なのか。あくまでも可能性の域は出ないが、シルフィナーレの言動的にも限りなくこれが真実に近いのだろう。



「チッ、本当に面倒臭ェ力だぜ」

「でも、お前達の場合はその力があるからこそ何とかなっている部分も大きいでしょう」

「だからこそだ」



いらない、と言えば勿論そうだ。けれど竜脈の力があったからこそ、出会えた奇跡だって確かにある。命拾いをした場面だっていくつも存在する。
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