A requiem to give to you
- 再誕を謳う詩・前編(5/5) -



「つーかクリフ、テメェがなんでここにいるンだよ」

「いや、それはこちらのセリフですよ。朝からどこかへ行っていたかと思えば、何だってモースの部屋なんかにいるんですか」



胸糞悪過ぎて吐きそうです。そんな事を宣いながらフードで見えない額を手で押さえるクリフに呆れた。



「じゃあ来るなよ」

「だって、暇ですし」

「オレで暇潰しをしようとするンじゃねェ! てか、最近なんでそんなに絡んで来るんだ?」



別にクリフとはそんなに仲が良かったわけではない。しかし何故かここのところ良く近くにいる気がする。勿論、アリエッタがいれば別だが、それでも遭遇回数が明らかに増えたと思う。

グレイの問いにクリフはキョトンとすると、それから口元をニヤリと上げた。



「え、自意識過剰ですかぁ? やだなぁ、私はアリエッタ一筋ですよ。態々それ以外の存在に好意的に近付くなんてあり得ませんよ」

「その言い方だと嫌がらせをしに来たと取れるんだが????」



米神を引き攣るのを感じながら両手の指を鳴らす。そろそろその減らず口を閉ざしても良いだろうか、なんて思っているとクリフは「そんな事より」と先に言葉を発した。



「これ以上ここに用がないならさっさと出ましょうよ」



確かにこれ以上は特に何も情報は出てこなさそうだ。渋々とクリフの言葉に同意すると、不本意だが二人でこの場を後にする。

そしてあの気味の悪い場所を出て、取り敢えず礼拝堂まで戻ってきた。今日は特に何もないので参拝客などはおらず、大きな扉も固く閉ざされている。



「はぁ………空気の悪い場所ばっかで頭が痛くなりそうだ」



漸く正常な空気を吸えた事に溜め息をついていると、今度はクリフが呆れたような声を上げた。



「じゃあ、何で態々そんな所に行ってるんですか?」

「調べたい事があったからに決まってンだろ」



でなければ、休みの日にそんな面倒臭い事なんて死んでもやりたくはない。



「それで、何か収穫はありました?」

「……まぁ、全くなかったわけじゃねーけど。ただ、今すぐに何とか出来る事でもないな」



そう答えると、クリフは「そうですか」とだけ返し、それから苦笑を浮かべた。



「基本、やる気がない癖に気になる事には一直線なその性格………やっぱり根底は同じなんですね」



それが何を指しているかなんて、わからないわけがなかった。



「……そう言えば、お前はトゥナロと知り合いだったんだっけな」

「まぁ、ぼちぼちの付き合いはありますね」



ふーん、と返しながらも、ふと気になった。



「逆にお前さ、オレと初めて会った時に何も違和感なかったのか?」

「アイツの能力を知っているのなら、わかるのでは?」



妙に棘のあるその言葉にああ、となる。そう言えばトゥナロは自身に能力を使っていたなと思い出した。そして同時に、改めて認識する。



「てかお前、もう隠す気ねーだろ」



そう言ってクリフを見据える。暫く黙ってこちらを見返していたそいつは、やがて力が抜けたように肩を竦ませた。



「………まぁ、お前相手に隠しても直ぐにバレるだろうしね」



あ、勿論他の人にはバラしてないからね、と特に有益性もない補足も入れられたが、グレイには関係はなかった。



「ったく、何だって普通に生き返ってるンだよこのクソガキ」

「元上司に酷い言い様だね」

「あくまでも元、な。今はオレの方が上だわ」

「ふふっ」



そんなやり取りの末、何故かクリフは面白そうに笑い出す。いつもの嫌な感じの笑みではなく、本当に……ただたやり取りを楽しんでいるような、そんな年相応な笑みだった。

何だか調子が狂うような感じを覚えつつ、「それで」と口を開く。



「お前のその暇潰しはトゥナロの代わりって事か?」

「うーん、まぁそれもないことはないけど………僕として普通に“友達”と遊んでるつもりなんだけどねぇ」



その普通と言うのが本当に純粋な気持ちから来ている物かはともかく、グレイはクリフを見て考える。

どうせ今日はもうやる事がない。このまま部屋に帰って惰眠を貪っても良いが、折角相手がここまで裏を明かして見せてくれているのだ。もう少しだけ、相手をしてやっても良いだろう。



「そうかよ。……ンじゃあ、こんなただっ広い所で立ち話するのも疲れるだろ。ヴァンの執務室(と言う名の『みんなの休憩所』)でも行こうぜ」



そして教えてくれよ、あいつの………オレの半身の事をさ。

そう続けるとクリフ───否、イオンはフードから覗く目を細めて笑うと頷いた。











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