A requiem to give to you
- 新幕はとうに上がっている(4/4) -



「核を無くした音素、ね。でもまぁ、音素同士が引き合うって事だから……多い方へと向かっていくんじゃないか?」



この世界において最も音素の量が多いのは音譜帯だと言うのは知っている。音素意識集合体達もプラネットストームを通じてこの地へと降りて来ているのだと思う。天よりも高い位置へと昇っていくか、もしくはシルフ達のような存在へと引き寄せられるかのどちらかだろうと推測出来る。

そこまで考えて、ヒースは一つの可能性に行き着いた。



「ちょっと待て。第七音素意識集合体であるローレライは地核にいたな。トゥナロが消えたのは地核に最も近いとされるセフィロトで、あいつ自身がローレライの眷属って事は………」



まさか、と人知れず目を見開くヒースにシルフは姿が見えれば肩でも竦めてそうな声色でこう言った。



『地核にいる大元に引き寄せられた可能性は、物凄く高いだろうねぇ』



まぁ、もしも本当にそこにいるのなら、人間は生身じゃまず行けないけどね。

そう続けられた言葉にヒースは静かに言葉を失った。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







「楽園は荒らされ絶望が世界を包む
何故人は獣となりて血を浴びるか
この力はもはや凶器にしか過ぎぬ
我三つの力知恵者に託す禁譜とす

銀に輝く氷塊はソイルの元に眠る
其は砂漠にて輝く絶対普遍の原理
氷雪の袂にて眠る大いなるの力は

荒野を抉る無慈悲なる白銀の抱擁

断罪の剣は寄せては返す南海の楔
沼地の虹霓は知の追及者を照らし
峠に七光の輝きをもちて降り注ぐ

天から降る怒りは神の子の大地に
無数の星は浅い川の水面を揺らす
神秘の島にて天の力にひれ伏さん










──────か」



レジウィーダは本を手に部屋で一人呟いていた。彼女の目の前にあるテーブルにはいくつもの石が転がっており、よく見れば何やら文字が刻んでいるのが見て取れる。レジウィーダが一通り本の内容と思わしきそれを言い終えると同時に石は一瞬だけだが光った……ような気がする。それに彼女自身は気付いていないようだったが、何やら違和感を感じたらしく「ん?」と首を傾げながら本から目線を上げた。



「なんか、今……」

「何をしているのですか?」



己以外に誰もいない筈の空間で、不意に聞こえたそんな声にレジウィーダは驚いた。



「うわぁ!?」

「デジャヴですね」

「いやそれあたしのセリフだから!」



何なんだよもーと、小さく憤慨しながらも声の主を振り返れば、そこにはレジウィーダの反応に気を良くしたらしいジェイドが立っていた。



「驚かせてすみませんね〜。何だか集中しているようでしたから………それで、それは何ですか?」



何だか貴女の言葉に呼応して石も光ってましたし、とそう続けられた言葉にレジウィーダは「え、マジ?」と石を見る。



「んー? 光ってた?」



石の一つを手に取ってみるが、文字が刻んでいるだけのただの石だ。しかもその文字も古代イスパニア語のようで、レジウィーダには読む事が出来ない。



「全然気付かなかったわ」

「そのようですね」



そう言いながらジェイドも石を手に取り見てみる。そんな彼を見ながらレジウィーダは「あのね」と言った。



「なんかここ(マルクト)に来たばっかの頃にゼーゼーマンさんからこの本をもらったんだよね。「我々では扱いがわからない」とか言っててさ。譜術に関する古文書らしくて、解読してまとめたメモも一緒にもらったんだ」

「成程。古代の譜術の詠唱、でしょうか……?」

「かな? んで、この本に書いてある内容的に、譜術を習得する為のヒントが書かれた石を世界各地にばら撒いたよーってっことらしくてさ。折角だからセフィロト巡るついでに探してみるかって、それっぽいのを集めてたんだよね」



どうやら当たりだったっぽいね。

そう言って笑うと、一通り読み終えたらしく、最後の石をテーブルの上へと戻したジェイドが眼鏡のブリッジを指で押し上げた。



「この短期間でよくやりますね。………ですが、これで本当に物に出来るのでしたらかなりのアドバンテージになりそうです。実際のところ、何か覚えた感じはしますか?」

「うーん……………わっかんないや!」



あはは、と笑いながらの言葉にジェイドは目を丸くした。



「て言うか、そもそもあたしの術って最初こそある程度形式に沿ってたんだけど、高位の術とかに至っては割とノリと勢いなところがあるし。あとは、なんかその時に浮かんだやつとか?」

「………成程、実に貴女らしい適当さですね」



レジウィーダの言葉に妙に納得したような、それで少しの呆れを交えながらもジェイドは小さく嘆息した。



「まぁ、でももしかしたら何かの拍子にポンと出るかも知れないし」

「そんな簡単に出されても困りますが???」



それもそうだ。



「いやいや、言葉のアヤだって! じゃなくて、そもそもあたしよりも譜術のエキスパートであるジェイド君の方がよっぽど有効活用出来そうだからさ、良かったらあげるよ」



そう言って本と石をジェイドに手渡すと、それを見てジェイドは少しだけ何かを言いたげにしていたが、やがて「わかりました」と頷いた。



「今後何かの役に立つかも知れませんし、貰っておきましょう」

「うん。よろしくー♪」



果たして本当に役立つ日が来るのかどうか、とどこか半信半疑なジェイドだったが、以外にもその日は近いのかも………知れない。











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