A requiem to give to you
- 新幕はとうに上がっている(2/4) -



それにタリスは頷いた。



「ええ。あの機能なら顔も見れるし、幸い携帯電話は各国に一台ずつあるからレジウィーダさえ繋げてくれれば出来ると思うの」

「成る程ね」

「本当はお互いに自由に繋げられると良いのだけれど………そこはサフィール博士に死ぬ気で頑張って貰わないとねぇ♪」



ふっふっふっ、と笑うとメルビンもまた嬉しそうに笑いを漏らしていた。

そんな時だった。



「あら、あれは………」



視界の奥で見覚えのある人物の姿が見えた。彼は何かを探すようにキョロキョロと街中を歩いていたが、ふとこちらと目線が合うと、ハッとしたようにタリス達の元へとやってきた。



「お前、一人なのか?」

「あら、挨拶もなしにいきなり不躾じゃない……アッシュ」



目を細めて微笑みながらそう言うとアッシュは眉間に皺を寄せた。



「ご機嫌よう、とでも言えば良いのか?」

「紳士の挨拶ではないわねぇ」

「じゃあどうしろって言うんだ」



チッと舌打ちをするアッシュに苦笑が漏れた。



「そこだけ真面目に考えなくても………まぁ、良いわ。それよりも、あなたこそこんな所まで何か用なの?」



何かを探しているみたいだったけど、とそう問えばアッシュは難しい顔をしながら話し出した。



「……アクゼリュスがコーラル城周辺で再建していると聞いてな。もしかしたらヒースがいるのかと思って来てみたんだが………どうやら宛が外れたらしい」

「ヒース?」

「バチカルにあまりいないと言う話は聞いていたからな。行くとすればここかと思っていただけだ」



確かにタリスが来なければヒースが来ていた可能性は高かっただろう。しかし彼らの関わりは少なかった筈だし、連絡を取り合うような仲ではなかったように思える。ならばヒースがバチカルにいないとは誰から聞いたのだろうか。しかしそれを問うた所で、きっと彼は答えてはくれないだろう。



「……まぁ、良いわ。それよりもヒースじゃなくて残念だったわねぇ。彼に何の用なの? 会った時にでも伝えておくけど」



そう言うとアッシュは顔を横に振った。



「いや、良い。あまり誰かを介して伝えたくはない……と、言うよりも直接聞きたい事があっただけだ。いないのなら、用はない」



悪かったな、とそう言ってアッシュは踵を返す。そんな彼を見送ろうとした時、タリスは気付いた。



(あ………)



いつか見たのと同じように、彼の体から光が抜けていくのを。まるで、魂が空へと昇るかのように、居場所をなくした光は舞い上がって直ぐに溶けるようにして消えた。そしてそれを、アッシュ自身は気付いていないのだろう。



「待って」



気が付けばその背に声をかけていた。アッシュは進み始めた足を止め、こちらを訝しげに振り返る。



「ねぇ、最近体調とかはどうなの?」

「……………は??」



意味がわからないと言いたげに顔を顰められたが、それで怯むタリスではなかった。



「前に会った時もそうだけど、ずっと各地を一人で巡っているようだしねぇ。あまり無茶な事をしているとナタリアが悲しむわ」

「……別に、お前にそんな事を言われる筋合いはない」

「それはそうだけど、でも私達も決して知らない仲ではないのだし、心配くらいさせなさいよ」

「余計なお世話だ」



こちらの言葉を全て一蹴するアッシュは今度こそ前を向いて歩き出す。タリスは無言でその背を見ていたが、彼の向かう遥か先………街の外に停めてある見覚えのある物を見ると、口角を上げた。



「そうねぇ………なら、お世話をかけるんじゃなくて、こちらからお世話になってやろうじゃないの」

「タリスさん?」



縫いぐるみのフリをしていたメルビンが首を傾げるのも気にせず、タリスは支度を終えた荷物とメルビンを抱えると機嫌良くアッシュの後を追った。



(ちょっと帰りが遅くなるけど……………偶には寄り道くらい良いわよね?)






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







ヒースはベルケンドへと来ていた。音機関研究所でヘンケン達に携帯電話を繋げる為の相談をしていた帰りだった。



(携帯電話自体はシェリダンの職人達でも作れる。けど通信をする為の理論はベルケンドと踏んできたけど、まぁ予想は外れてなかったな)


前にディストことサフィールと話した時のように、通信をする為の装置は音符帯を利用して空へと浮かべるか、各地へ無線基地局を設置するのが理想だと言う事になった。問題はその無線を使う為の電波をどうするか、と言うこと。信号を含ませた電波を扱うには流石に素人ではどうする事も出来ない。そして前例がないからか、そこはヘンケン達でも直ぐには計算なども出来ないので、焦らず少しずつ進めていくしかないだろう。

ただ、この世界でも十分にヒントになりそうな物はあるのだ。



(セフィロト同士を繋いでいたパッセージリングのあのシステム。あれが一番理論的には近そうなんだけどな。創世暦時代の産物……か。導師イオンにその手の資料がないか聞いたら出してもらえないかな)



それがあればジェイドなりサフィールなりに解読してもらって理論を確立してもらうのが近道になりそうなものだが、果たしてダアトにそれがあるかどうかの問題もある。もしくはユリアシティになるが、それもまた可能性が高いとも言い難い。………問題は山積みである。
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