Rondo of madder and the scarlet- -
【2/2】
あれから暫く怒っていた茜も時間と共に落ち着き、二人は近くのフードコートで昼食を取った。
午後は緩やかに回るコーヒーカップやメリーゴーランド、ゴーカートなど遊園地の定番であるアトラクションを一つずつ回っていった。
それだけで時間はあっと言う間に過ぎて行き、いい感じに日も暮れてきたので最後に観覧車に乗ろうと乗り場へと向かったルーク達だった。
が、しかし……
「え、メンテナンス?」
「はい。つい先程システムの不良が見られまして、緊急で行う事になりました」
申し訳ありません、と困り顔で頭を下げるスタッフにルークはガックリと項垂れた。
「うぅ、乗ってみたかったな」
「仕方がないよ。無理に乗って事故でも起きたらそれこそ大変だもの」
そう言って慰めてくる茜にルークは顔を上げ「それもそうだよな」と溜め息を吐いた。
「あ、そうだ。それじゃ、ルークさ」
突然、茜は思い付いたように手を叩き、ルークの名を呼んだ。それにどうしたのかと彼女を見れば、茜は明るく笑って手を取ってある方向を指差した。
「最後にあれ、見に行かない?」
「あれって確か………」
パンフレットを見ると、『Star OF Stroll』と書かれていた。どうやら星を見るアトラクションらしい。
「どうかな?」
そう言って首を傾げて見上げてくる茜。星を見るのも悪くはないか、とルークは頷いて返した。
*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇
中は一面に星の海が広がっていた。暗い空間に輝く満点の星々が描かれており、まるで宇宙にそのままいるかのような、不思議な感覚だった。
"星の散歩"とはよく言ったものだった。
「すっげ…………」
「うん、とっても綺麗だね。宙や睦君がいたら喜びそう」
「二人は星が好きなのか?」
ふと彼女から出てきた二人の名前にルークが問い掛けると、茜は一つ頷いた。
「わたしも睦君達も実家にいた時はよく夜に遊ぶ事が多かったから、よく星を数えたりしてたんだ」
そう言って懐かしそうに笑う茜。それがとても優しさに満ちていて、本当に二人が大好きなんだと、そう思った。
ルークはそんな彼女に「そうか」と返して壁に手を置きそっと触れる。
(茜にとって宙や睦は、俺にとってのガイやナタリアみたいな感じなのかな…………いや、)
この間の留守番の時に宙から少しだけ聞いた茜の話が甦る。
彼女は二人と、両親以外の人間を本気で信用が出来なかったのだと言う(今は両親もあまり信用していないらしいが)
狭められた小さな世界で心を許し、真っ正面から見つめる事の出来た人間がその二人だけだと言う彼女は、どちらかと言えば何も知らなかった頃に嘗ての師しか見えていなかったルーク自身と似ている気がした。
(まぁ、俺と違うのは、それでも前を向こうする素直さ…………なんだろうな)
その素直さで、彼女の世界は広がってきている。人を信頼し始めている、と言う宙の言葉は確かで、彼女は出会ったばかりの頃よりもずっと真っ直ぐに己を見てくれているように思えた。
未だに自分は助けられてばかりで、逆に彼女からルークを頼ってくれるような事は殆どないのだが、それでもふとした時に己の名を呼んでくれるのがとても嬉しかった。
「ルーク」
名前を呼ばれ、振り返ると茜はルークの触れる壁を見ていた。
「これ、星座だね」
そう言われて手を退けると、星と星を線で結んだ物が現れた。これがこの世界の星座らしい。
オールドラントにもあったが、やはりその形は全くと言って良いほど異なる物だった。
「これは山羊座だね。わたしの星座と一緒なんだよ」
「そっか、茜は12月生まれだったか?」
記憶を巡らせながらそう言えば茜は嬉しそうに頷いた。
「覚えててくれたんだね。うん、わたしは12月生まれだよ。ルークはローレライデーカン………13月だよね」
「そうだよ」
とは言ってもこの世界には13月はないんだけどな、と苦笑すれば茜は「じゃあさ」と手を叩く。
「この世界にいる時だけ誕生日を同じにしちゃおうか…………なんて、」
「茜と同じ日?」
意外な提案に目を白黒させていると、茜は自分で言ってて恥ずかしくなったのか、顔を俯かせて前髪を弄り出した。
「いや、うん………そしたら一緒にお祝い出来るかなって……思っただけよ。うん」
「茜…………ありがとう」
茜は本当に優しい子だ。幼馴染みでも、況してや身内でもない己の為にいつも色々と考えてくれている。
この世界ではルークの誕生日が来る事はない。ならば自分と同じ日に祝おうだなんて……普通は言わないだろう。
けれどそんな彼女の優しさに、暖かさにルークは愛しさを感じずにはいられなかった。
「茜」
名前を呼べば茜はゆっくりと顔を上げた。まだ少し顔が紅かったが、そんな彼女の気が触れない程度に小さく笑うと手を差し出した。
そんなルークの意図がわからずに暫しルークと手を交互に見ていたが、やがて恐る恐る自分の手を重ねた。
「……………………」
自分よりも小さな彼女の手を引いて歩きながら、ルークは天井の星を見上げた。
(これは……………ちょっとヤバイかも知れねぇ……)
彼女に気付かれないように己の胸に手を当て、いつの間にか早く波打っていた心臓にルークは握っている手に少しだけ力を籠めたのだった。
2013.10.7