Rondo of madder and the scarlet- -
【2/2】
生い茂る森、時折聞こえる虫の声。上を見上げれば澄んだ空に浮かぶ満点の星が見える。辺りはすっかりと暗くなっており、如何にも何かが出そうな、そんな感じだった。
しかし、茜はそんな不確かな事象の可能性よりも、先程………チームが決まり別行動を開始した時から気になる事があった。
「坂月君、大丈夫かしら……」
チームは桐原の兄の方こと聖(←以降こちらで統一する)と、陸也の二つに別れた。茜はルーク、愛理花と共に前者のチームとなった訳だが………
「確かに。あいつ、過労死しなきゃ良いけどな」
茜の呟きを聞いていたらしいルークが何とも言えない表情でそんなことを言った。
……因みに、陸也のチームのメンバーは清乃と宙だ。夕方のやり取りからして、あの三人が揃うのは関係的に非情に面倒臭い事だろう。
陸也には悪いと思いつつも、こちらのチームで良かったと内心安堵している部分があるくらいだ。
そんな茜達を後目に、懐中電灯を持ちながら先頭を歩いていた聖がどこか呆れたように溜め息を吐いた。
「まぁ、元々陸也と宙は喧嘩仲な上、清乃は宙をあまり良く思っていないからな」
「でも、宙ちゃんはそうではないですよね」
聖の話を聞いていた愛理花がそう言うと、彼は歯切れ悪くも頷いた。
「うん、まぁ……そうだな。どちらかと言えば"好意的"だな、うん」
「……えっと、何か……ごめんね」
何となく、宙の性格上どう言う意味なのかが解ってしまい、思わず謝ってしまう。それに聖は「別に鴇崎さんが謝る事はないよ」と苦笑した。
「寧ろ、あのメンツで一番問題があるのはウチのバカ妹の方だから。見ててわかったと思うけど、あいつ陸也にすごく懐いてるんだよね。だから宙の性格以前に、よく関わってくる彼女が根本的に気に入らないんだよ」
だから余計に当たりが強いと言うかなんと言うか……うん。そう言って言葉を濁す聖。その意味があまりにもわかり易すぎて、茜は自然と口を閉ざしていた。
「………………………」
「茜? どうし……────」
急に黙り込んでしまった茜にルークが声をかけようとしたその時、突然にそれは聞こえてきた。
……いっ……た、……は、……………こ……
『!!?』
四人の間に緊張が走る。
「な、なななななんだ今のっ!?」
「も、物凄い唸り声なような感じでしたけど………」
ルークと愛理花がそう言いながら辺りを見渡す。茜は何か知っているのではないかと聖を見た………が、
「…………え、桐原君!?」
あまりの状態に慌てて聖の肩を掴んで揺らすが、彼からの返事はない。
「……立ったまま気絶してる」
「はぁっ!?」
「ええっ!?」
思わずそう呟くとルークと愛理花から驚愕の声が上がった。まぁ、当然だろう。
「ちょっ、ちょっと待てよ! そこまでか!? そこまでいくか普通!?」
「そう言えば妹さん、兄は怖がり………みたいな事を言ってたわよね」
大袈裟だろ、と混乱するルークと、その横で冷静に状況を整理しようと呟く愛理花。とにかくまずは聖を起こして先程の声の正体を確かめるべきだろう。そう伝えようとした声は、誰もいなかった筈の方角から伸びた手が肩に置かれた事によって遮られてしまった。
「………え」
思わず振り向いた先には………
「みぃ……………つけ、たぁ………………」
全身ずぶ濡れの人間。濡れた髪の合間から見せるギラギラと光る目を見た茜は堪らず悲鳴を上げた。
「きゃああああああああああっ!!」
持てる力を全て使い、全力で肩に置かれた手を振り払う。肩が軽くなると、そのまま地を蹴り走り出した。
「! 茜!?」
ルークが名を呼んで叫ぶが、混乱する頭ではそれを理解するまでには至らなかった。
今は早く帰りたい。その一心で進む足は、更に森の奥へと続く事を知らぬまま、暗闇に向かって走り続けた。
2013.9.2