【2/2】
それから暫くして、茜は睦達も交えて出店を回る事になった……のだが、
「おっしゃー! 8匹目ゲット♪」
「ハッ、それしきで喜ぶなんて温い奴だな。オレなんか11匹だ」
「ふ、んぐぐぐぐぐぐ……!」
「ル、ルーク、頑張って!」
何故か宙、陸也、ルークで金魚すくい勝負をする事になった。因みにルークはただ純粋に金魚すくいをしたかっただけなのだが、どうにも桐原曰く"喧嘩仲"だと言う二人の対決に巻き込まれてしまった。しかしルークは全く初心者な上、やり方だって満足にわからない。先程からポンポンと愛らしい赤と白の金魚を掬っていく二人の姿を見様見真似で金魚に挑むが、これがなかなか上手く行かない。茜はそんなルークに「無理はしなくて良いよ」と言うが、元来負けず嫌いな性分らしい彼はかれこれ既に三度目の挑戦をしていた。
「〜〜〜っ、ダメだぁ!」
「はっはっはっ、兄ちゃんもまだまだだねぃ」
遂に三個目のモナカをダメにしてしまい音を上げたルークに店のおじさんが楽しそうに笑う。そうしている間にも宙と陸也は未だに勝負を続けていたが、まだまだ時間がかかりそうである。
「ねぇ、宙。わたし達、そろそろ次に行きたいんだけど」
あまりここに長居していても時間が勿体ない。しかも既に睦や桐原、愛理花の姿はなく、他の出店へと行ってしまったようだ。
「あーオケオケッ、いってらっしゃい!」
宙は金魚から目を離さずにそう言った。それにしてもあんなに取って二人は持ち帰った後にどうするつもりなのだろうか、ちゃんと飼えるのだろうか、なんて疑問に思いながらも茜はお土産に金魚が一匹入った袋をもらったルークを向いた。
「じゃあ、次行こうか」
「そうだな。じゃあ、次はどこに行く?」
さっきまでの無念(?)は既に過ぎ去ったのか、彼の目にはまた先程のような好奇心に満ちた物になっており、思わず笑いがもれた。*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇
射的にたこ焼き、かき氷、籤引きにお面と祭り事ならではの出店を回り尽くし、茜達は近くのベンチで休憩する事にした。
「あー……楽しかったなぁ」
頭にハムスターのキャラクターを模したお面を着けたルークがラムネを飲みながら嬉しそうにそう言った。それに茜も同意するように頷く。
「うん、なんか久々だよ。誰かとこんな風に出かけたの」
「え、そうなのか?」
目を丸くしてルークが問いかけると、茜は静かに締めの踊りをしている人達を見た。
「うん。実家にいた時はあまり友達と遊んでいなかったから。睦君も去年の暮れにはこっちに来ていたし、宙にだって長く会ってなかったしね」
「そうなのか。……ん、でも家族は? 家族と出掛けたりはしないのか?」
こっちの世界ではよく家族とも出掛けるんだろ、と言うルーク。しかしその言葉に茜は途端に俯き、黙り込んでしまった。
「……………」
「茜……?」
急に喋らなくなってしまった為、ルークが心配そうに声を掛けてきたが、茜は直ぐに顔を上げると苦笑を浮かべた。
「わたし、一人っ子だから。それに父さんと母さんとは……ちょっと色々あって、暫くは一緒に出掛けたりはしてないんだ」
色々、と言うのは適切ではない。本当は理由は一つに限っている事だからだ。しかしそれをルークに言った所でなんとかなる訳でもないし、逆に優しい彼に心配をかけてしまいかねない。そう思って黙っていると、ルークはそれをどう取ったのか、「そっか」と一言だけ言ってそれ以上は何も言わないでくれた。
(……ありがとう)
そう感謝しながらも視線を広場へと戻すと、一組のカップルが前を過ぎ去る。仲睦まじく、幸せそうな笑顔で手を繋ぐ見知らぬ二人の背を見て、心が冷えるのを感じたが、それは気のせいだと言う事にしてゆっくりと目を逸らした。
2012.9.17