Rondo of madder and the scarlet- 城内温度調節機 -
季節は夏真っ只中な八月初旬。学生は夏休みに入り、アウトドアな少年少女は海に山に外国に、はたまた祭りにイベントに行楽施設などなどと、好き好きのサマーライフを過ごしている事だろう………約二名を除いては。
「はぁー………涼しいv」
「………………」
「お前らなぁ…………」
ガクッと頭垂れたのはルークだった。それもその筈。彼の目の前では正に年頃の少女二人がエアコンの前でただ寝転びながら涼んでいるのだから。因みに彼女達の近くにある小テーブルの上には食べたばかりのかき氷の器やらアイスの棒などが置いてあった。
「毎日こんな生活ばっかしてっと体壊すぞ」
「んー、だって外暑いんだもん」
「うん……暑いのは、ね……」
よいしょと起き上がり長い髪を掻きながら宙が言うと、茜もゆっくりと起きながら申し訳無さそうに笑って頷いた。当然ながらそんな二人にルークは不服そうに顔を顰めた。
「確かに暑いのはわかるけどよ。折角の夏休みなんだし、どっか行くとかさ」
「この暑い中外なんて出たら死んじゃうよ。エアコンないとあたし生きてけないヨ!」
「あのな……じゃあ、せめてもうちょっと何つーか…………何かしようぜ?」
「何か?」
「何か………かぁ」
茜は宙と顔を見合わせるとうーんと考え始めた。しかし正直な所、もう家の中でやる事はないのだ。
「家にあるゲームはやり尽くしたし、かき氷も西瓜も食べた。家事もやっちゃったからなー」
宙が指折り数えながらそう呟くのを後目に茜は壁に掛けてあるカレンダーを見た。今の時期に何かあるとすれば………
「あ、そうだ。ねぇ宙」
茜が呼ぶと宙は「んー」と振り向く。そんな彼女にカレンダーを差しながら言った。
「もう直ぐお盆よね。今の時期だったら近くの公園でお祭りとかやってるんじゃないかな?」
「あ、そう言えばもうそんな時期かー。お祭りね………あ!」
カレンダーに目を通していた宙は何かに気が付くと冷蔵庫の方へと駆けていった。それから直ぐに戻ってくると嬉しそうに笑いながら二人に一枚の紙を見せた。そこには『納涼盆踊り』と書かれていた。
「今日、中央公園で夕方からお祭りやるんだよ」
「中央公園って、確かあの大きな樹のある公園だよな?」
ルークが問うと宙は頷いた。
「そうだよ。この街で一番大きな公園だから、出店とかも一杯あって結構楽しんだよなーコレが。これで良かったら後で三人で行こうよ!」
「祭りか、良いなそれ! 茜!」
そう彼女の名前を呼んで振り向いたルークの目はとても期待に満ちていた。そんな彼に茜も小さく頷いて返した。
「うん。わたしも行きたい」
それに宙が指を鳴らした。
「んじゃ、決まりだね! 早速浴衣を探して来なきゃ!」
「え、別にそこまでしなくても」
普通の格好でも良いと言い掛けた茜だったが、それは宙によって遮られてしまった。
「なーに言ってんの。ここでこそあーちゃんの可愛さを引き立てないでどないせいっちゅーねん! あたしが目一杯可愛くしちゃうから待っててね☆」
言うが早く宙はさっさとリビングから出て行ってしまった。それを呆然と見送る茜の横でルークが力なく笑っていた。
「はは……さっきとはまるで別人だよな」
「まぁ、それが宙だからね」
ルークの言葉に同じ様に笑いながらそう返して宙の残していったチラシを見る。大きな字でタイトルが書かれていて、下には開催日程などが記されている。
何となく裏返してみれば電化製品の広告になっていた。電動かき氷機やら冷蔵庫やらが特価で安くなっている旨が書かれる下の方に、何やら手書きされた文字を見つけた。
「………?」
そこはエアコンの紹介覧だったが、何故かそこに『エアコン=城内温度調節機(武士語)』と殴り書きされていた。
「……………」
「? どうしたんだよ茜」
急に何も喋らなくなってしまった茜にルークが問いかけると、茜は何でもないよと笑って静かにチラシを元の場所に戻しに行った。
2012.8.21