悪気がなかったと
言い訳しても遅い


act12...孤独な獣


 パンプは知っていた。

 あの男は偽善の塊で、本当はこちらを常に見下している。一段高いところからの景色はさぞや素晴らしく、他人を踏み台にしても見たい美しさなのだろう。孤高に酔い、勇猛な戦士を気取る快感。パンプがついぞ味わったことのない美酒が、あの男の主食なのだ。自身を肥えさせながら、更なる皿を要求する貪欲さを恥ずかしいと思わないのだろうか。節制とは無縁の、人としては最悪の堕落を果たしている。

 パンプだけが知っていた。

 疑念なんかではない。確信であるそれを、パンプはしかし口に出せずにいた。優しさや思いやりなどではない。あの男の狡猾さも、よく知っていたから。決して悟られないようにと。慎重をきしたあの男は、村では良い子として通っていた。砂を重ねるような馬鹿馬鹿しい精密さで、本性を隠しているのだ。
 羨ましいとは思わない。所詮は悪臭を振り撒く屑籠に、蓋をしただけの見せかけだ。薄くて軽いそれが風に吹かれれば、終わる。あの男は重しをしているつもりでも、臭いは確かに漂っている。近づけば必ず、誰しもが分かる。
現に、パンプは気づいた。
 小さな綻びだ。しかしあの男の下劣さを知らしめるには申し分ない。親愛の証と嘯いて、奴隷印を押すという卑劣さ。
 あれは、ハロウィンの日だった。お化け南瓜の滑稽な顔に、あの男は笑っていた。嘲笑を愚物に宛がいながら、思い出したようにこちらを向いた。あの男は歪んだ笑顔を浮かべながら、言うのだ。

「お前の名前って、南瓜に似てるな」

 それから、それが渾名になった。南瓜と、歪で不細工な野菜で呼称される。蔑称は村に広まり、パンプを惨めにさせた。
 あの男が、言わなければ。パンプは何度も思い、恨んだ。あの男さえいなければ、きっと己はもっとまともに生きられた。
言い訳はいらない。あのお男が悪いのだ。


top
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -