愛している
愛している


act11...嘘吐きの結末は


(とある宮廷仕官者の日記より抜粋)

 ここ数日、ずっと考えていた。しかしやはり私には裏切る事は出来ない。嘗て、私を救ったあの方が唯一与えた命令だ。どうしてそれを裏切ることが出来るのか。
 姫はとても強いお方だ。私の仕打ちにも、耐えられるだけの魂を持っているだろう。確信はあるが、それでも恐ろしくてならない。真っ直ぐ向けられていたあの瞳が、疑念と失望に満たされるのかと思うと、いっそ消えてしまいたい。あの時救われずに、朽ち果ててしまえば良かったのかもしれない。少なくとも、こんな苦しみを味わうことはなかった。
 何故、と人は問うだろう。何故、こんな惨いことが出来るのかと。何故、己を慕った人間を最も残酷な方法で裏切るのかと。
 私は、私自身に何度も訊いた。あの方にそこまでの恩義を感じているのかと。事実を言えば、既に恩義は果たされている。それにも関わらず私は裏切ることが出来ない。哀れなあの人形と同じ従順さで、私はあの方にかしずく。
 もしかしたら、これは忠義でないのかもしれない。あの方の為ではなく、利己的な行動原理に突き動かされているのではないか。ああ、そうだ。そうだった。
 私は思い出になりたくない。姫の記憶の有象無象でいたくないのだ。私は、私は
 特別なんておこがましい。それなのに、姫に忘れられたくないと思う。良き思い出以外の何者かになりたい。私自身を知って欲しくてたまらない。
 そのために、なんと下劣な手段をとることか。私という人間の本性に吐き気がする。姫の心に塞がらない傷を残し、私は満足するだろう。
 私は死も無も恐くない。ただ一つ、姫が私を必要としない生を送るのが恐ろしい。姫の魂の一部に、私という存在があって欲しい。
ああ、私は、私は


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