青空が美しいと誰が決めた。

 眼に映るはただ仕切りのない青ばかり。雲に遮られることのない蒼穹は、視界を濁らせるだけだ。自由を謳いながら、一色しか許さない矛盾を孕んでいる。
 ペタは憎んだ。何も生まない空を見上げて、渇いた喉で吼えた。雨を予期させない空に怒り、無意味な足掻きを残響させる。空は痩せた地を潤す唯一の希望すら潰していた。人の業を固めて出来た砂を、知らないわけではあるまい。
 大地は砂にのまれた。豊かだった土壌はいまや、脆い砂丘である。絶望を形にした砂漠は、無限の地獄だ。餓えと渇きで溢れていて、死だけが生まれる。
 砂漠を作ったのは人だ。己が利のためだけに、地を焼いた。住まわっていた全てを殺し、大地に飢えをもたらした罪深い生き物の名前。
 人が憎い。全てを乾かす青空が、憎い。憎くて憎くて、たまらない。

 もう限界だった。

「っ……!」

 涙があふれる。ペタは涙を、苦しみの糧とした。弱き者という烙印を押されようとも構わない。ただ子供のように泣きじゃくり、救いを求める。青空に潰されそうな心は、しかし孤独なままだった。
 乾いた空は、ペタを嘲笑っている。全てを覆った広さで、逃しはしないと高らかに宣言した。神の掌を気取った広大さは、ペタを絶望に塗り潰した。孤独と絶望に彩られたまま、涙を枯らすことも出来ない。

「ファン……トム」

 呟いて、また。世界の塵に成り果てた人を思い、苦しくて悔しくてたまらなくなる。ファントムが望んだ世界は、夢のまま儚く散ってしまった。その残滓は愚かな人々食い尽くされてこの様だ。結局、世界は最悪の形で終わったのだ。ファントムもペタも、憎悪の化身であるキングすら忌むべき結末。
 そんなものは見たくなかった。まるで地獄の様相に、錯覚してしまう。

ここは本当に現実なのか。

 ペタは疑った。何せ目を覚ます前、己は死を感じていたから。復讐鬼に殺され、無様な姿を晒す瞬間を覚えている。皮膚を裂いた痛みも、胸を包んだ悲しみも確かに現実だった。だからここは、地獄なのかもしれない。
 その方が、いい。ファントムの夢の舞台がこんな風に潰されたなんて、悲しいじゃないか。彼の望みの行方がこんな行き止まりなんて、哀れじゃないか。

 しかし青空は真実を照らしていた。

 光に満ちた空。目を逸らしたい事実すら、網膜に焼きつけてしまう。暗闇のように優しく隠してはくれなかった。まるで光明のみが正しいと主張するような、傲慢さだ。
 ペタの手の甲には、呪いの烙印があった。死を永遠に遠ざける刺青が、はっきりと刻まれていた。かつてファントムが携えていたそれと、同じ形である。ここでは、苦痛でしかない生を強要する呪物だ。
 何があった。ファントムが死んだというなら、これも失われる筈だ。ファントムが生きているなら、世界はこんなに荒廃しない筈だ。そもそも、この呪いが成就する前に、己は死んだ筈だ。何もかもが不明瞭で、理解不能だった。
 どうすれば、いい。誰も答えを知らない問いに、ただ涙を流すしかない。何を成すことも出来ない、歪みきった世界。

この青空の下、永遠に生きていけと言うのか。




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