あと少し早く
もう少し早く


act10...小人達の復讐劇


哀れな子もいるのだと。

 それは、同情だ。アッシュは路傍に蹲る子供を、そんな思いで見た。痩せ細った小さな体躯は薄汚れている。ボサボサにはねた栗色の毛髪は、艶を知らずにいる。
 敷布が子供の家なのだろう。薄くて狭いそれを握り締めた手が語ってくれた。唯一の領地を奪われまいとする健気な抵抗は、誰に向けられているか。人々は子供のことなど、見ていない。
 アッシュ以外、全てが通行人だ。人の海は冷たく波打っている。対象が幼ければ、より早く温もりを奪うだけの極寒だ。無情な世界に放り込まれた、無力な子供に、無関心なまま生きる。罪深いと感じていない群衆に、絶叫したい程の嫌悪が浮かんだ。
 嫌な汗だ。自分が獣の檻に閉じ込められたような、感触。左右を抜ける肉の塊は人の魂を宿している筈なのに、化物よりもおぞましい。周囲が人であるからこそ浮かぶ侮蔑は、アッシュを満たした。
 幼い子を放ってはいけない。それがアッシュの、人間としての矜持だった。胸底から湧いた思いを、捨てはしない。あの子を、見捨てられるわけがない。自身も録な稼ぎもない若造であると知り、それでも尚、手を伸ばすことを望む。
 しかし、子供がアッシュを望むことはなかった。アッシュより先に、救いを与えたもうた人間がいたから。紫の髪で目を隠す怪しげな風体の男は、慈悲に満ちた眼差しで子供を導く。
 男を追いかける子供の姿に、安堵する。強い足取りはもうアッシュを必要とすることはないだろう。一抹の寂しさと、途方もない後悔が胸を占拠した。

哀れになった子がいると。


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