「つまり今は大丈夫になったんだ。彼が死んでいても、もういいんだね」
「違う。……覚悟を、した。壊れる覚悟を」

 死を美しくは思わない。だが、無意味に生きるのも止めた。ロランが亡くなったのなら、それでもいい。自分も死ぬだけだ。小さな掟一つで、親友が奪われる。そんな理不尽で満ちた世界で、呼吸は出来ない。住人になるには無理がある。
 今を生き延びたところで、また次。違う顔した理不尽に出会い、同じように苦しむ。繰り返す内、心は朽ちるだろう。
 なら今、消えてしまえばいい。
 それがあの時の、臆病への答えだ。

「死にたいの?」
「俺はロランと生きたいだけだ」

 これ以上の本心は存在しない。アルヴィスの全てだった。心根からの慟哭は、果たしてこの男に通じただろうか。
 判じ得ないアルヴィスは、待った。彼の薄い唇が創造する、真実の一欠片を。

「君の、名前は?」
「アルヴィス」
「そう。いい名前だ。ねぇ、トモダチになろうよ。アルヴィス君」
「……何を、」

 何を言っているのか。この男は、何がしたい。海とか空とか、理解とは無縁の、途方もない存在に思えた。思考を麻痺させ、行動を根から奪う。

「いいでしょ。それに君、ロランに会いたいよね」
「!会えるのか」
「うん。だって彼、ここに住んでるもの」

 男は、あっけらかんと言ってのけた。アルヴィスが散々恐れて、求めた答えを。一桁の加算でも解くように、導いた。
 嘘は無かったことにされた。平然と微笑む男は、自分の発言を覚えていないのか。
 呆然とする間。刃のように冷たい感触が、手を握った。傷つけることはないけれど、溶け合うつもりもない。そんな、体温だった。

「行こうか」

 ロランの元へ。

 掴んだ希望が、絶望に見えるのは何故だろうか。

"first"end.



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