最後の一人を倒して微笑むファントムの姿に、頼もしさで胸が一杯になる。返り血を拭うことなく立つファントムは、綺麗でしかない。
 良かった、あとは帰りを待つだけ。ロランの心が固定されかけ、ペタがARMを取り戻そうとした時。一人の影が、ファントムの前に現れた。

誰?

 それが、ロランが最初に思ったことだった。
 無造作に跳ねた青みがかった黒い髪。吊り上がった深い青の瞳。ファントムの腰にも届かない小さな体。幼い、子供だ。
 何も出来ないであろう体で、何か喚いている。声は届かなくとも分かる、煩わしさ。ロランですらそう思うのだから、ファントムにはもっと鬱陶しいだろう。ロランは小さな子供の死を、予感した。それはきっと、横から幼い子供を凝視するペタも同じであろう。ペタのひそめられた眉から、ロランは子供が無惨に殺される光景を感じた。

「…、何を」

 そう言ったのは、ペタだった。いつもより難しい顔をしたペタが、呟いた。
 何かあるのだろうか。滅多に表情を崩すことないペタの珍しい変化は、ロランに好奇心をもたせた。小さな瞳でペタの顔をのぞきこめば、真っ暗な瞳に捕らえられる。
 普段より、厳しい。光の灯ることのない暗い瞳が、そう感じられた。まるで怒っているみたいに。

「さあ…ロラン、もういいだろ」

 ロランは無心に頷いた。ペタの怒りは自分のせいだと、思ってしまえば逆らえはしない。これ以上の我が儘が何を招くか分からないから、ロランは恐れて避けた。
促されるまま、部屋から出る。拒絶するように閉められた扉を、ロランは疑問に思うことはなかった。



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