失敗を恐れたロランは、分かりきったことを尋ねた。ペタは自分の無知を、責めたりしないことをロランは知り過ぎていた。間違えて恥ずかしい思いをするぐらいなら、始めから何も知らない振りをした方がいい。利口を装うよりも、それはずっと楽だった。
 ペタの心の若干の違和感と引き替えに、ロランは安心を手に入れる。期待なんて、されなくてよかった。
 これがきっとファントムの前なら、自ずと振る舞いは変わる。ファントムの期待には、何を犠牲にしても応えたかった。ファントムのためなら、命すらも惜しくない。
 言われた通り、水晶を上から覗く。紫が一段と濃くなって、もう水晶はどんな光も通していないようにみえた。
 なんでこんなことをさせるのか、ロランは口を開きかける。また失敗したくは、なかった。

「あ」
「見えたか?」
「はい。これは…ウォーゲーム、ですか」
「そうだ。気になるなら、見ておけ」

 ウォーゲームが始まってから、ロランは外に出ること許されていない。しかし好奇心に歯止めはなく、外に憧れる気持は知らずに肥っていった。
 ロランは水晶に、魅せられていた。見ることが叶わないと諦めていた景色が、水晶の奥に揺らめいている。
 薄紫がかった先にはファントムが、いた。何人もの敵を相手に、動くことなく、怪我することもなく。ファントムの微笑む姿に、頼もしさで一杯になる。
 音は届かないけれど、我が儘は言わない。ただファントムの帰りを、祈るように待っていた時とは違うのだから。

「そろそろ試合も終わりだ」

 普段より優しい声色で返せ、と仄めかされる。ロランは名残惜しくて、ペタを下から見上げる。
 まだ試合は終わっていないかった。あと一人、敵がファントムの前にいるのだ。圧倒的にファントムが有利とはいえ、何が起こるのかわからない。

「もう少し、だけ…いいですか?」

 困らせてまう。そんなことは知っていた。それでも、まだ見ていたかった。
ロランの言葉に、ペタはほんの少し困った顔を見せた。やっぱり、とロランが顔を下げると、ペタは小さく「試合が終わるまでだ」と告げた。





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