*必然的な出会い


 紫の水晶玉が、蝋燭の炎に妖しく照らされている。見るからに胡散臭いそれを、ロランは不思議な顔して見つめていた。
 壮美な室内に、ある机も豪華で。薔薇やらなにやらが描かれた上に、紫の球体は余りにも不釣り合い。ロランが覗けば、大きくなった瞳が反対に写る。硝子で出来ていることは、簡単に想像できた。
 水晶玉を持ち出した主、ペタが席を外している今。ロランには、水晶の用途を知る術はない。
 放置された水晶玉は不安定で、息を吹けば転がってしまいそう。室内から浮かびあがった水晶に、すっかりロランの興味は注がれてしまう。異質な存在は、大人が思う以上に子どもを拐う。
 触れたくとも、触れられないもどかしさが胸を掻き混ぜた。
 なんだろう。どうするんだろう。些細なことだけど、好奇心は量を増した。
 少しなら、触っても大丈夫かも。小さな囁きは、心から漏れた。駄目なことは、理解している。それでも。
 ロランは息を飲んで集中した。少し触るだけと、言い訳を繰り返す。蝋燭が照明の薄暗い室内、ロランは自分の存在が浮き上がっているのを自覚した。
冷たい空気に身を震わせ、手を。

「気になるのか?」
「っえ、……あ」
「だが、駄目だ。一応珍しいARMだからな」

 ロランが驚きにもがいている間に、ペタはロランの後ろからARMだと謂う水晶に手を伸ばした。そっと丁重に持ち上げる様を見て、ロランは思い出したように息を吸った。

「あ、あ……あの、ボク、は」
「気にしていない。だがもう少し、我慢を覚えておけ」
「…は、い」

 歯切れの悪い返事だけを返して、ロランは熱った顔をペタから反らす。
 恥ずかしくて、どうにも顔をあげられない。救いは、ペタが赤く染まった頬に気づかないこと。こんな醜態を、ロランは意地でも見られたくなかった。
 恥ずかしくて、情けなくて。こんなに弱いから、戦争にも出してもらえない。
 寝泊まりするこの城から、未だに出してもらえない理由をロランは知った。心が未熟なら、魔力は意味を成さない。腕も細いまま、焦る自分が取り残された。
 どうしてこんなに弱いのだろう。弱音を、伝えられもしない。
 への字に綴じた唇から、やっと息が這い出る。音は、同行してくれなかった。
 じっとロランが、自らに施した恥辱に耐えている間、ペタは知らぬ顔で魔力を産みだし始めた。目には見えないけれど、肌にまとわりつく嫌なもの。ペタが目を細めると、塊になって水晶に流れ込む。
 紫の光が、水晶にともった。ぼんやり部屋に浮かぶ様子に、ロランの瞳は宝石と同じに輝いた。
 靄がかった紫の光にかざされた、腕。常に白いそれは今、更に不健康な色に染まっている。
 すぅっと、ペタが呼吸の一環で目を閉じた。綺麗に練られた魔力を、水晶は貪欲に貪る。

「覘いてみろ」
「え…ぼ、僕ですか?」
「他に誰が」

 今度は、恥ずかしくなかった。ロランは計略と云うには拙すぎる、作戦の成功を密かに祝った。また、失敗するのはきまりが悪いから。





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