沈ませた心の、いずれかは陽光に晒されるだろうか。淡い望みは、もう塵と消えた。

「ふむ…どうしようか」

 吹き消した本人は、口を曲げて前を見据えている。何をどうするのか、見当もつかない。
 ガリアンはペタのかわりに、大きく溜め息をついた。緊張からか、焦りからか、判断のつかない汗に、手を滑らした。

「そうだな…特定の誰か、というわけじゃないんだ。別にファントムも好きでは……ああでも、必要だな」
「利用しているのか?」

 誰を。自分を。ファントムすらも。何に?
 女にも見える、容姿。薄い唇は、女が余程考えないことを発する。

「そうかも、な」
「ッ!なんだ、それは」

 独り言のように、ぽんと放たれた言葉はあまりに無責任だった。ガリアンの覚えた憤りは、もしかしたらファントムにも同情したのからかもしれない。
 頭に上った血が音をたてて、波をうつ。また、あの。全てが白くなり、ペタだけが特別な。

「どうしてだっ!お前はっ!何のために!」
「知らぬ」
「知らぬ、とは!」
「だから知らないのだ。私も、私自身がどうしてこうなった、のか。何をしたいのかも、すら」

 横向いたペタの顔が、無言に叫ぶ。知らない、のだと。
 量を減らした血の気が囁くままに、白いペタの横顔をみつめた。曲がった唇が、固く結ばれたまま。
 ガリアンは改めて、ゆっくりと息をした。見慣れた廊下に、見慣れた人がいる。
 雨粒が硝子をうつ、廊下は暗く。等間隔でともされた蝋觸は柔らかい。それに照らされた人も、今では柔らかく見えた。

 ペタも、人なのだ。
 脳がゆっくり、歩みを始める。
 どれだけ人を傷つけていようが、ペタも人なのだ。傷つかないわけない。悩まないわけない。
 簡単だ、やったらやり返すなんて子どもの思考。偏見を捨てて、見据えれば、ただの人だ。

「あんたは、何が大切なんだ?」
「そうだな…夢が、夢を叶えたい」
「…頑張れ。今はこれしかいえん」

 子供だな。まだガリアンには、その先は言えない。
 自然と沈黙になった二人に、訪れたのは別れだった。決別ではなくとも、確かな別れ。
 逆に向きあった目線の先、廊下は暗かった。

「すまない、ありがとう」

end


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