それは出来すぎた偶然だった。

 仄甘い行為の温もりが残るなか。早々に服を着込むペタに、ベッドからガリアンは怪訝な表情を表した。

「なんだ?」
「…そんなに急ぐことないだろ、まだ日も出ていない」

 ペタは笑いながら、「子供みたいだな」と。原因を探れば、無意識に掴んだローブの裾が手元にあった。情けなく思いながら、名残惜しくもあるそれを離す。

「最近、ロランの様子がおかしいんだ。部屋を長く留守にできない」

 渋い顔して、呟く横顔にみとれる。こぼれる金色の髪が、綺麗。

「…分かった」

 なに一つ分かってはいないが、ガリアンは無理に言葉を選んだ。あの小さな子供を、ひっそり憎らしく思いながら。

「すまない。また」

 パタン。音をたてて閉まった扉は、ペタのいた痕跡をあっさり絶つ。
 気だるい体を起こして、時間をかけて服を着る。腰を散らばった服の破片を寄せ集め、気づく。

「?…このARM」

 ペタが耳につけていた、通信用ARMだ。ガリアンが耳を甘噛みした時に、無理矢理外した。
 ペタはそれに気付かずに、忘れてしまったんだろう。恋人に会う口実が出来て、ガリアンは上機嫌に服を纏う。
 依存しているのは自覚済みだから、自己嫌悪に陥ることもない。初めは、そう。
目を閉じて浮かんだのは、誘うペタの瞳。深淵に恋して、求めた。
 ガリアンは思い出を抱く、女々しい心を甘んじて受け入れている。それほどまでに、ペタはガリアンの心を掴んだまま。
 もと通りに格好を整えて、滑るが如く寝台を脱け出た。念のためのARMを腕と首に。
 大切な口実は、掌にしまった。
 ペタが去った時よりも、随分と軽い音を立てたドア。暗い廊下に、恋人の歩みを探す。
 鼻唄でも唄いたい気分だった。あの堅物と称される恋人は、理由がなければ意思を曲げない。おまけにまともな意見しかいわないものだから、稀にしか再度会うことを許されない。
 扉の刻印、それぞれの名前を辿って、ペタの部屋までを数える。あと少し、そう思えば単純な心は弾んだ。

「…ぁっ…う、」

 上機嫌に進むガリアンの足を止めたのは、聞き慣れた、濡れた声。
 低い、男性的だけれども、女の毒も孕んだ、ペタの声。
 全てが白く
 途切れて、
 あらぬ方に向いた視線は、ファントムの名前を刻んだ。

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