あまい
りんご


act8...蛇の誘惑



「裏切り者は、またいずれ裏切るぞ」

 ガリアンは言った。目の前の男は、笑った。瞳は「知っている」と語っていた。
正直、ガリアンには理解出来なかった。ガリアンは己に、そこまでの価値があるとは思っていなかったからだ。
 強い、といっても目の前の男には敵わない。語るべき理想も、持っていない。ただ生きているだけ、に近いのだ。
 強くありたいと願う。思う。望む。それが己で、他はない。愚直でありながら、信念に 死ぬ覚悟を持てない。自己認識はどこまでも低く、愚かなまでに正当だ。

「馬鹿だ。お前達を、そう思っていた」

 怪訝そうだ。布に上半分が拐われた瞳でも、細められたのは分かった。何か、男は喋ろうと口を開く。しかし、ガリアンはそれを制した。ただ聞いていて欲しかった。

「だがしかし、尊いのかもしれない。信念のために戦う方が、裏切るよりもずっと」

 祈り、信じ、憧れれば夢想も真実になるであろうか。強さへの憧憬と同じ分、思った。彼らのように、生きてみたいと。

「それで、?」

 男は問うた。焦りも苛立ちもない、ただ淡々と、事実を求めている。

「いいだろう。共に」

 軽々しい。寒気がするほど、上辺だけだ。形式の上に成り立つ握手に、ガリアンは苦笑した。
 男も承知している。ここには、相互に成り立つ好意はない。そして、悪意も。しかし、それでいいと思う。裏切り者には、相応しい扱いだ。
 ふ、と振り返る。過去に仲間だったものが、あった。

「私は君達のことは、嫌いじゃなかったよ」

男には聞こえないように、呟いた。


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