体に染み付いた技術は冷静にアルヴィスの動きを封じた。彼を中心として下から足場が、足場から鉄柱が何本も伸びてくる。鉄柱は上方で緩やかに曲がり、やがて一ヶ所に集い絡み合った。巨大な鳥籠の完成だ。ついでに籠の頂点から天井を繋ぐ鎖が生まれ、それはぎりぎりと音をたてながら短くなり、アルヴィスを吊り上げた。ロランは動けないアルヴィスを見上げながら、わずかな満足感に口を歪ませる。ネイチャーARMである籠はダークネスARMによる拘束には劣るが、今のアルヴィスをいたぶるには十分だった。 格子越しに見る彼は弱々しかった。子羊のように頼りない姿に、ロランは容赦なく攻めの手をはなった。アルヴィスの手出し出来ない、格子の外から攻撃を加えるのだ。幾重にも蠢く茨を操り、籠とアルヴィスを締め付けた。 このまま、なぶり殺してやる。茨の戒めをじわじわと強めていけば、悲鳴は段々と強まった。アルヴィスが苛まれ傷つく姿に、ロランの心はどうしようもなく踊っていた。嗅ぎ慣れた血の匂いが、脳髄を酔わせているのだろうか。部屋の空気は凛と冷えきっているのに、ロランの鼓動は熱を孕んだまま暴走していた。 そうだ、このまま殺せばいい。死んでしまえばいい。鼓膜がそんなふうに震えている。殺意を伝えて、茨を強くしめつけた。とうとう己が架した檻の柱が、音をたてて折れてしまった。 ああ、死ぬんだ。 ロランの脳裏を違和感が掠めた。人殺しは初めてでないというのに、心はいまだ慣れないのか、過去を掘り起こしていく。体験を思い出すことで安寧を図ろうとしているのだ。 ざらつく場面。血だらけの地面。その下に埋まった死体。 ああ、アルヴィスも死ぬんだ。 あの男のように。 ペタのように。 それは恐れだった。死体のような感触がロランの魂に触れた。刹那の冷たさであったのに、ロランの熱は一気に奪われた。血の気がひいて、アルヴィスの命が重要なことに気づいてしまう。 もしもアルヴィスが死んだら、ファントムはどうなる。ここにいないというだけで、彼はまだ生きている。彼の心を救えるのはもうアルヴィスだけなのだというのに。 精神というよりしろを失い、魔力は枯渇した。ひしゃげた籠は地に落ち、痕跡を残さず消えていった。茨の蔦も同様で、まるで何もなかったかのように全ては再び静まりかえった。ただ力なく横たわるアルヴィスだけが、過去の憤怒を伝えていた。 ロランは慌ててアルヴィスに駆け寄った。目立った外傷がないことに、何より安堵した。これぐらいならと安心に息をついた。 良かった。まだファントムは救われる。 → |