重厚な扉は城の最奥にあった。ファントムが待ち構え、アルヴィスが不死になる場所だ。暗く淀んだ空気が足元からせり上がり息苦しくなる。取手に手をかけ、躊躇うように揺れるアルヴィスの瞳を見た。目を逸らすほど綺麗な青だったのに、今はもう濁っていた。戸惑いが雲となり覆ってしまったのだろう。
 クラヴィーアの空は暗い。僅かな光も、恐れや不安が隠してしまった。残念に思う一方、不思議と満たされる感情があった。それが何であるかはまだ分からない。
 曇り空しかないのなら、昼も夜も同じだ。どちらか一方を選べというならば、ロランは夜を選ぶ。ファントムがいるからだ。
 ロランは夜へと続く扉を開けた。窓も灯りもない暗闇で埋まった場所に、ぼやけた光が差し込んでいく。隅々まで輪郭のない明るさが行き渡り、ロランは絶望的な光景に行き着いた。

 ファントムがいない。

 頭を殴られたと思った。衝撃は激しく、視界は反転し地面は大きく揺れた。精神が肉体の首を絞め、殺そうとしている。意識しなければ自立すら困難で、半ば無意識にアルヴィスを振り払っていた。盛大な音を立てて床に落ちた荷物を、確認する暇もない。うめき声を聞いた気がしても、ロランは振り返らなかった。
 歯を食い縛り動き出す。困惑に足を縺れさせながら、ファントムの姿を探して回った。必要もないのに狭い部屋の隅から隅まで行き、壁に触れた。見えないことと存在しないことが同じ意味であるのを、認めたくなかった。
 しかしファントムの影はどこにもない。
 どこにいったのだろうか。首をもたけだ疑問の答えも見つからない。狂ったように問いばかりが廻り、胸を締め付ける。喉の奥から何か苦いものがせり上がってきて苦しい。全身が不調を訴えるのに、不思議と感覚は冴えていた。
 ざり、と誰かの足音がした。反射的に振り返っても待ち人はいない。そこには困ったようにアルヴィスが立ちあがっていた。足音は彼のものだろうと推測した瞬間、感情が爆発した。
 逃げるのか。ファントムに望まれていながら、彼を見捨てようとしている。あれだけ善を説きながら、たった一人を救わないのは大いなる欺瞞だ。
 ロランは生まれて初めて、人を殺したいと思った。こんな殺意は初めてだった。アルヴィスさえ存在しなければ、と臓腑の底が叫んだ。怒りが、悲しみが、憎しみが、一様に言う。

 こいつさえいなければ。

 思いを叫びに変えた。憎しみを魔力に変えた。ロランは既にARMを発動していた。







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