アルヴィスから返事はない。ただ少し大きめの悲鳴が聞こえた。返答しようと口を開いても、どうやら呻きに変わってしまうようだ。ロランは無視して語りかけた。
 アルヴィスが喋れないのは好都合だった。なぜなら、これは会話ではない。ただ一方的な恨みを感情のままにぶつけるだけの暴力だ。ロランは声と言葉という道具で、相手を切り裂こうとしている。

「私もあなたも、まだ子供でした。そう、私がクロスガードのあなたのお仲間を一人、殺した時に」

 いい人だった。お人好しで情に篤い。だから死ななければならなかった。

「確か、アランさんが隣にいましたよね。あなたはいつも仲間と一緒だ」

 ロランの心は不思議と晴れた。懺悔を終えたような心持ちだ。今、肩を貸す男が紛れもない敵であると判明したからだろう。アルヴィスは孤独と、それにまつわる恐怖を知らない。恵まれた環境で育まれた者に、毒沼の中で生きたファントムやロランの気持ちは分からない。

「あなたには孤独な者の心が分からない。だから私を救えることはない」
「っ……」

 反論などできるはずがない。アルヴィスは苦悶の悲鳴で精一杯だ。痛みに歪んだ表情を冷ややかに一瞥してから、ロランは更に歩調を緩めた。気遣いとは正反対の残酷な理由だった。もっとアルヴィスが痛み、苦しむ様を見たかったのだ。

 それなのに。アルヴィスは必死に言った。掠れた声で、ロランだけに聞こえる声で、呟いた。

「……すまない。お前は優しいな、ロラン」

 ロランは天を仰いだ。

 彼は、なんと哀れな男だろうか。

 お人好しにも程がある。性善説論者とて、ここまで他人を信じないだろう。その愚かしさがいずれ致命傷になることを知らない。ロランは大いに憐れみ、蔑み、予感した。アルヴィスはいつかあの男と同じく、救った相手に裏切られる。
 下らない問答だった。結局、アルヴィスの更なる欠点を浮き彫りにしただけだ。ロランは憂鬱を吐き出してから、前を見据えることにした。一層濃くなった闇の気配は、ファントムの居所から漏れだしている。
 目的地に着いたのだ。








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