*こんな所まで似なくても

 クラヴィーアの空は暗い。硝子越しに見上げた天は透明な美しさを欠いていた。重苦しい雲の海は凪いだままで、鳥の羽ばたきを妨げている。鴉すらも戸惑う暗い空の下、ロランは光を探していた。
 しかし太陽は見つからない。灰色の蓋をされた空に、自然と溜め息がこぼれた。その吐息は硝子に貼りつき、景色に純白をもたらすが、僅かの間に消え失せる。
 呼気は呆気なく宙に逃げた。残滓も残さない手際のよさが、羨ましくて堪らない。胸の詰まりは霧散しないどころか停滞している。不安が心を覆い、苦しみは募るばかりだ。この空のように、光は見つからない。
 あるいはどこにもないのかもしれない。ロランは窓枠に切り取られた空の隅々まで目を走らせた後、そんな風に諦めた。ここに光は射すことはなく、期待するだけ無駄だと。
 瞑目し、いよいよ全ての光を見逃す。暗闇では鼓動が煩く、それが却って不安を煽った。深呼吸を繰り返してみても、こびりついた恐れは消えないものだ。血液の奔流は指先から熱を奪い、心臓に集めて恐れと戦っていた。
 もうすぐここには客人が訪れる。ロランは彼らには、決して弱みを見せたくなかった。胸中をさらけ出してしまえば、彼らはそこに付け込んでくる。肉体的な敗北を喫した今でも尚、精神の敗北は矜持が許さない。
 平静を掴みたい。安寧を求める心と、指が胸元の鍵を探り当てるのは同時だった。簡素な鍵は不思議と暖かく、冷えた手がゆるやかにほどけていった。温もりは肌に感覚を戻し、鍵の輪郭を容易に伝える。何千回と見た姿が瞼の裏に浮かび、ロランは安堵の息を吐いた。鍵が渡されたときの森のざわめき、ペタの横顔、優しさ。全て思い出せる。
 それだけでよかった。根拠のないまま大丈夫だと信じられる。
 ゆっくりと目を開けた。相変わらず外は曇りで、薄暗い。照明のない廊下は輪をかけて暗く、光は不在のままだ。ロランは失望を持たず、客人を待つことに専念する。彼らには急ぐだけの理由があるから、まもなく訪れる。

「やっと……」

 呟いたのは意味のない言葉だった。続く気持ちを見つけられないまま、扉が開く音を聞いた。ゆっくりと対峙に向かって歩き出した。廊下の奥は暗くて見通せないが、けたたましい足音と気遣いの声は確かに近づいていた。

「ロラン……」

 鼓動が煩くて誰の声なのかは分からない。しかし薄暗い廊下の真ん中、苦しむアルヴィスと再会したのは確かだ。タトゥに蝕まれ、痛みに喘ぐ姿を見て、心が満たされるのを感じた。感情の由縁を見ないふりしたままロランは、客人達を睥猊した。

「ここから先に行けるのは一人だけです」








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