君の羽根
むしるのは誰?


act6...鴉の亡骸


鳥に、餌をやる。

 日課になったそれは、城の窓から行われていた。
 ヴィーザルは丁寧にパン屑を皿に並べると、鳥が集まるのを待った。いつもと同じ時刻同じ場所なら、いつもと同じ鳥が来るだろう。
 お気に入りの安楽椅子を窓辺に寄せて、静かな風に身をまかせる。春風は朝の陽光と等しく、ぬるま湯だ。ともすれば睡眠を欲する精神に、年齢を感じてしまう。

「いかんのう」

 呟いて、溜め息。弛んでるわけでもないのに、眠りを欲してしまう。
 抗う若さはヴィーザルにはなく、鳥を待つのと眠りを兼ねることにした。ゆっくりと、微睡みの妖精に体を明け渡す。

 次にヴィーザルが目を醒ましたのは、不快な鳴き声が耳を掠めたからだった。低く濁った、カラスの声。あまりにも醜く貪欲で、ヴィーザルは身震いした。
 ああ、カラスは餌を喰らっているではないか。
 小さな鳥のために用意したパン屑は、大きな捕食者に食い荒らされている。許せない、とヴィーザル思った。許してはいけない、と当たり前のように思った。
 ヴィーザルはゆっくりと立ち上がってから、ARMに魔力を注いだ。光と共に、現れた蔦は風よりも速く、カラスを絡めとる。
 ぎゃあ、ぎゃあ、と煩い断末魔をききながら、蔦は少しずつカラスを絞める。それはヴィーザルの意思だった。
 羽をばたつかせながらもがく姿に、笑いが溢れる。黒い羽にに食い込む緑は、綺麗だ。
 少しして、ようやくカラスが黙る。首を下に向けたまま、動こうとしない。死んだのだ。

「やれやれ」

 こんな呆気ない生き物に気分を害されたと思うと、溜め息しかでない。ヴィーザルは蔦を緩め、カラスを落下させた。
 地面に衝突する音を聞き届けてから、ヴィーザルは再び安楽椅子に腰かけた。
 少し待つと、いつもの鳥がやってきた。愛くるしい容姿に、ヴィーザルは微笑む。
 朝の陽光。穏やかな風。美しい鳴き声。穏やかな時を、過ごした。


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