いたいいたい
いやだいやだ


act5...夢は終わらない


どさり。

 何処か遠くで、音がした。人が倒れる音だ。
 ああ、やっと死んでくれたんだ。ファントムは喜びに微笑んでから、気づく。倒れたのは己だ、と。
 固い地面の上で、力が入らない体をなんとかしようと試みた。じたばたと惨めに足掻くことすら出来なくて、悔しさに奥歯を噛んだ。
 負けてしまう。このままでは、負けてしまう。嫌だ。いやだ!
 もしも声が出ることが叶ったなら、ファントムは叫んでいただろう。負け犬の遠吠えと知りながら、「いやだ」を繰り返していただろう。
 許せなかった。ファントムには、ダンナが勝つことが許せなかった。世界を変えて良くなるのか悪くなるのか、そんなのまだ分からないのに、今負ければ悪役にされる。
 悲しいぐらいに人の心を知っていたファントムは、負けるのが悪いと知っていた。荒い息を出しながら、必死で地面に向いた首をあげようとする。
 ダンナ、はどうしたんだ。勝利という祝酒に酔っているのか、それとも優しい彼のことだ、死んだ仲間のために泣いているのか。
 どちらにせよ、顔すらあげられない今の状況ではなにも見えない。
 終わりたくない。終わりたくない。死にたくない!
 不死であることを忘れて、足掻く。自分が風に逆らおうとする、綿毛でしかない存在なのを思いしらされる。どうしようもない、と憎い敵が笑った気がした。

「……」

諦めるなんて、できない。


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