手を伸ばす
届かない



act2...女王の成敗




あれは違っタ。

 暫くの間、木張りの床に座り込んでいたピノキオンは立ち上がり、鮮やかな彩色の箱に近寄った。
 蔦の這う古城の窓から見るには地上は遠すぎた。くらみそうな高さと、強すぎる陽射しに目を遮る。
 ピノキオンが神経質に扱う箱には、女王からの贈り物が詰めこまれている。
 ディアナが与えた一つ。小さな人形を胸に押し付けた。
 温もりもなければ、鼓動もない人形。ピノキオンは自分とは違う、布と綿の感触を優しく包んだ。
 優しい笑顔の刺繍が、こちらに語りかける。
 これは、選ばれなかった。こうして腕の中、おとなしく納まっているのがいい証拠だ。

 その人形に飽きたピノキオンは、また別の。今度は木でできた操り人形を、堅く抱く。
 木はピノキオンの肌を擦り、小さな音で小さな傷をつくった。

 このまま抱き絞めていれば、崩れてしまう。大した危機感もないままピノキオンは思った。それでいいとも、ピノキオンは思った。
 こんな人形とは違うから、選ばれた存在だから。操り人形のように、だれかの掌で転がされることもない。
 胸内のぎゅうぎゅうに押し潰された人形と、ふと目が合った。筆で描かれた表情は、笑ったまま。
 痛みに歪むこともない。ピノキオンも変わらず、人形と見つめ合った。
 傷つけられて、理不尽に奪われて。そもそも最初からなにも持たされてはいない。
 堪えきれず、形を失った人形をまた一つ、積み。胸に出来た新たな窪みに触れる。

「痛くなイ。でも、もうすぐ痛いのが、なんだか分かるんダ」

 嬉しそうに、ピノキオンは胸の窪みを撫でた。単なるこの窪みが、傷になると思うと、ピノキオンは今までにない感情を知った。



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