■ 恋せよ少年
応接室から見えるのは、朝のチャイムに焦るあの子。
正門が閉まるギリギリで滑り込む。
毎朝よく飽きないものだ。
綱吉が学校内に入る様子を見届けた雲雀はクスリと笑んだ。
そして何もなかったかのように机に向かうと、積まれた資料の一枚を手に取る。
一際高い資料の上ではヒバードがすやすやと眠っていた。
『卒業式行事式典要項』
太く、くっきりと印字されたその文字を雲雀は指先でなぞり静かに見つめる。
卒業式…。もうそんな季節が来るのか。
外ではまだ僅かに冷たい風が吹いている。この肌寒さが無くなれば3年生は学校を去らねばならない。
(…まぁその点では僕にとってさしたる問題ではない)
雲雀は持っていた紙を机上に投げ出した。
なにせこの学校事態が雲雀のテリトリーだ。卒業など自分の人生の一つの区切りにも満たない。
いつ卒業しようと、いつこの応接室から立ち去ろうと、全て自由なのだ。
しかし、あの子はそうはいかない。他の者と同様に学年を上がり卒業していくだろう。
カラカラと音を立てて窓を開ける。
その音に反応してヒバードが目を覚ました。
「綱吉…」
愛しく想う彼の名前。自然と口からこぼれ落ち、晴れ渡る大空に飼い鳥が翼を広げて飛び立つ。
「…?」
ふいに人の気配を感じ視線を巡らせると、背丈の低い影が出入り口の磨り硝子に映った。
影は動かず喋らずでただ突っ立っているだけだった。
敵意は無さそうなのでしばらく様子を伺っていたのだが相手は何も変わらない。雲雀は一歩踏み出すとそのまま二歩三歩と突き進む。
「誰?」
「ひっ!?」
ガラリと扉を開ける。
目下にいたのは茶色い癖っ毛に大きな瞳を持った小動物…否、沢田綱吉だった。
綱吉は肩に鞄を掛け、大事そうに紙の束を抱き抱えたままビクついていた。
「ワォ。君さっき遅刻してなかった?」
綱吉を見下ろす。
「いや、ギリギリ間に合いそうだったのにさっき先生に呼び止められて…。あ、あのっ、先生がコレを…雲雀さんに渡して来いって。。」
怯えた手つきで差し出してきたのは雲雀への仕事だった。
最近は行事も重なってやる事が多い。
雲雀は溜息をついた。
素直にプレゼント(仕事)を受け取ると、手を拱いていた綱吉を見やる。
「もう帰って良いよ」
「え?あ、はい!!」
綱吉は慌てて姿勢を正す。失礼しますと一声かけて足早に逃げていった。
…はずだった。
「………帰らないの?」
雲雀の予想に反して綱吉は目の前にいた。依然ビクついたままだが。
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