「どうも。」

「俺達は。」

「「『叶え屋』です。」」


応接室で静かに佇んでいたのは20代前半の綺麗な女性。笑った顔が凄く綺麗だと予想が付くくらい。

さらさらと長い黒髪が肩を流れている。きっと毎日丁寧に手入れをしているんだろうな。

でもその人の顔は無表情だった。きっと交際の問題で表情を作らないのだと思う。
あたしがそんな事を考えている間に那奈登は女性に椅子を勧めていた。

那奈登が無言でこちらを見ている。あたしは那奈登の動きに合わせて椅子に座った。


「それで、貴女の叶えたい欲望は何ですか?」

「貴女は誰を陥れたいのですか?」


そのセリフを聞いた途端、初めてその人が表情を作った。
でもそれは笑顔ではなく、醜い歪んだ表情だった。その人が綺麗だから余計その表情が醜くあたしの瞳に映る。


「その言葉を待っていたわ。そうよ……あんな女は消えちゃえば良いのよ……。」


初めて口を開いた彼女の声はとても透明感がある綺麗な声。でもその人の言葉は酷く怨念じみていた。


「訳を話して下さい。そうしないと契約を結ぶ事は出来ません。」


あたしが話すと一瞬彼女の体がびくっとなったように見えた。どうしても契約を結びたいと思っているから?


「話したくないのなら結構です。ここに来た事も全て忘れて下さい。」


那奈登が冷たい声で言った。表情が見えないから……余計その言葉は残酷に聞こえる。


「待って!!話す……話すから契約を結ばないなんて言わないで!!」


その人は慌てて言葉を発し、そして静かに……そしてウットリとした表情で語り出した。


「私の名前は村田優。私には昨日まで付き合っていた彼氏が居たの…。付き合いだしたのは去年から……最初は幸せだった。彼はサラリーマンで真面目だった。私は花屋でバイトをしていたの。ある日彼が母のために花を買いたいと行ってきて私の店に来た。その日から彼は休みの日になるたび私の店に来て花を買っていってくれたわ。それから1ヶ月が過ぎて彼から告白されたの…。嬉しかったわ。私も彼がいつの間にか好きになっていたから…。そうして私たちは付き合うようになった。と言っても特別な事はあまりしなかった。彼が休みの日になる度に花を買いに来て私が笑顔でそれを売る。でも付き合う前と違ったのは彼の顔を見るたびに何かが満たされるような気がしたの。たまには店長の計らいで彼と同じ日を休みにしてもらって公園にデートをしに行ったくらい。」


そこで彼女は一息ついた。あたしは無言で立ち上がり台所に向かうとお茶を注いで、応接室に戻り無言のまま彼女に差し出した。

彼女は礼を言って一口飲み、また語り出した。でも今度の表情は少し歪んで見える。


「そんな関係が続いて続いて半年ほどしたら彼は徐々に代わり始めた。休みの日になっても店に顔を出さない日があったり、デートの約束をしてもすっぽかされたり…。最初は仕事が忙し過ぎて来れないと思ったわ。でも違ったの。ある日私は無理を言って彼の家に上がり込んでそっと彼の携帯を見たの。そしたら何が写っていたと思う!?」


そこまで言うと彼女の顔が一気に歪んだ。これはもう気のせいじゃない。

声色だって怨念に満ちている。最初の頃を語っていた時とは丸で別人みたいに……。

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