「遅かったじゃん、登奈。でも……ギリギリセーフ。」


あたしが家に着くと那奈登は既に着替えていた。あの忌々しい装束に…。

那奈登はそれ以上何も言わず奥の部屋を指さした。

あたしは僅かに吐き気を覚えながら奥の部屋に向かう。那奈登が既に準備をしていてくれたみたいで机の上にあたしの着替えが用意してあった。


『ずっとしている事なのに』
そう頭で分かっていても体が分かってくれない。震える指先でそれを手に取るとゆっくりと制服を脱いでそれに着替えた。

棚の上にあるもう一つの物を那奈登の分も取って部屋から出た。那奈登は付けていなかったはずだから。

部屋から出たあたしを見て那奈登はすっと手を差し出した。あたしはその手をまだ震えている手でそっと掴んだ。

那奈登がそんなあたしの手に視線を落として、一呼吸置いてから呟くように言う。


「まだ慣れてないのか?いい加減、慣れろよな。俺達は……叶え屋なんだから。」


《分かってるよ。》そう言いたいのに声が出ない。あたしってつくづく駄目な姉だと思う。

何も言わないあたしに痺れを切らしたのか那奈登はあたしの手を放してあたしが持っていた『物』を取った。

無言のまま那奈登はそれを付けて動こうとしないあたしの顔にもそれを付けた。
那奈登に視線をやると那奈登はあたしの視線から逃げるように時計に目をやった。


「登奈、そろそろ時間だ、5分後に来る。」


那奈登の言葉が聞こえた瞬間あたしの震えが止まった。5分後に来る出来事に対抗するために無意識に止まったのかもしれない。

そう思うと嫌な感じがするけど震えが止まったからそれで良いと思う自分も嫌だ。

でも……5分後に体が震えているなんてシャレにならない。そう自分に言い聞かせて来るべき瞬間に備えた。

チラッと那奈登に視線をやると那奈登があたしを見た。その表情は無表情にも見えるし悲しそうにも見え、そして微笑んでるようにも見えた。


そして5分後が来た。あたし達は全く同じ動きで応接室に向かった。

2人とも白の千早と黒の袴を身につけ顔には白い仮面…。那奈登の方には右目に、あたしの方には左目に紋様が付いた仮面を付けた格好で……。

他人が見たらきっと鏡に映したように見えるだろうと思いながら……。

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