どんなときも、いつだって声が聞こえていた。
 私を呼ぶ声。まるで迷子みたいな、泣き出しそうな女の子の声。
 絶えず頭の中に響き続けるその声に聞き覚えはない筈で、それでも、私は不思議とそれが不快ではなかったし、怖いと感じたことだって一度もなかった。むしろ、その声はひどく切実に痛切に私を呼ぶから、その理由を知りたいとすら思っていた。何を考え誰を愛そうとも、私にとってその声を無視したり忘れようとしたりすることは、絶対の禁忌だったのだ。
 そして今、唐突に、私の中で全てが繋がる。
 嗚呼――なんだ、私はこの声をよく知っているじゃないか。だってこれはあの子の声。脆くて繊細で寂しがり屋で泣き虫で、華奢で小さな女の子。私と同じイノベイター。アニューアニューと私を呼びながら、いつも後ろを付いてきていた愛しい子。
 そうだ。アニュー・リターナーという存在は人間ではない。私の居場所はここではない。たとえここに愛しいひとがいようとも。だって私はイノベイター。あのひととは違うのだ。
 さあ、思い出したなら早く帰らなきゃ――あの子が泣いてる。



どうしようにも救われないこの運命をそれでも恨みもしなければ呪いもしなかったそんなおまえが 誇りでした
title:選択式御題

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