「部屋にいないと思ったら、こんな所にいたのかい?」

 テラスでお茶の用意をしていると、背中からそんな風な声がかけられて、わたしは振り返る。

「リボンズ! あ、ねえ、おじさまは?」
「アレハンドロ様ならもう出掛けたよ」
「えーっ」

 リボンズのその言葉を聞いて、思わずがっくりと肩を落とすわたし。
 どうやら、予定が早まってしまったらしい。本当は、おじさまの出発前に三人で、のつもりで準備していたのだけれど、こうなってしまっては仕方がない。もったいないから、リボンズだけでも付き合ってもらおう。
 とは思うものの、そう簡単に割り切れる筈もなく、わたしはうーうー不平を漏らしながら二人分の紅茶を注ぎ、その傍ら、お茶請けのクッキーをつまんではお行儀悪くばりばりと咀嚼する。八つ当たりの如く。
 そんなわたしの様子に、リボンズは呆れたように肩をすくめた。

「……君は、本当に変わっているね」

 どこが、とは聞き返さなかった。わたしの立場を思えば、それは尤もな感想だった。
 わたしは、言わばおじさまの駒なのだ。
 おじさまが身寄りのなくなったわたしを拾ってくれたのは、わたしがイオリア・シュヘンベルクの血族だったから。おじさまにとって、有益な存在だったから。
 と言っても、おじさまは今のところわたしに何も望みはしないし、それこそ、本当の娘みたいに育ててくれているだけだったりするのだから、そりゃあ、「おかしくなりもするでしょうよ」。おじさま、妙に過保護だし。

「大方、今回リボンズがここに残ってるのだって、わたしを連れて行けないからでしょう?」
「その通り。君の子守りを任せられてしまってね」
「いつもそうなのよね。何かあったらリボンズに何とかしてもらうといいって」

 自分から話題を振っておきながら特に興味もなさそうにカップを傾けていたリボンズが、その瞬間だけついとわたしを見、あろうことか鼻で笑った。
 「別にアテにしてませんよーだ」。リボンズは時々、何故かわたしに対してこういう態度を取る。おじさまの前では猫を被っているのだ。どちくしょう。なんて、胸中でこっそり悪態を吐いていると、「……気が向いたらね」。ぽつり、リボンズが声を落とす。

「へえ? なに、珍しいね。ちなみに、それって可能性はどれくらい?」
「さあ? 得意の数式でも使って出してごらん」



幸福の条件
20111216
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