予想外に空いてしまった時間を持て余して艦内をうろついていたわたしは、通路の先に見つけたその背中に嬉々として声をかけた。「ろーっくおんっ!」。振り返って、ロックオンが笑う。

「なまえか。どうした?」
「暇なのー。ロックオンは? どこに行くのかなっ」
「ああ、ちょっと射撃訓練でもと思ってな。新参者だからって足引っ張れないだろ?」
「へえ。案外マジメなんだ」
「そりゃ心外だな。俺はマジメにゃ見えないってか……つーかなまえ、前見てないとぶつかるぞ、っと」

 言ってる傍から危なかったのか、「だから言ったろーが」。呆れたように言うロックオンに手を引かれて、勢い余ってその胸にダイブ。鼻先を強打した。痛い……。
 「うぐ……ごめん」。鼻を庇いつつ視線を前方へと移す。いつの間にか通路の角に差し掛かり、丁度、反対側からも誰か来ていて危うくぶつかりかけたらしい。誰かっていうか……うん。

「……刹那……さ、ん、?」

 思わず敬称。
 わたし何かしたっけ。いや、最近は大人しくしていた筈だ。だと言うのに、多分、十中八九、九分九厘、今の刹那はすこぶる機嫌が悪い。ここのところ、ちょくちょく機嫌が悪そうなときもあったけど、ここまでじゃなかったのに。
 しかも、どうやらそれはわたしだけが感じていた訳ではないらしい。「なまえ、後は任せた」とか「刹那も。取りゃしねーからそうカリカリすんなって」とか何とか言い残してロックオンが逃走を図ったのである。
 「えっ、ちょ……っ」。何とか引き止めようと思わず伸ばした手。が、刹那のそれに絡め取られる。その雰囲気とは裏腹に、まるで触れることを恐れるみたいに、遠慮がちに。「えっえっ?」。うろたえるわたし。黙ったままの刹那。ロックオンはその隙にいなくなっていた。

「……せ、つな?」
「…………」
「何かあったの?」
「…………」
「あ、いや、言いたくないならいい、ん、だけど、ね?」

 困った。会話が続かない。どうも怒っているのとは少し違うようなのだけど……このまま刹那が何も言ってくれないならこれ以上の進展なんて見込める筈もない。『言わなくてもわかる』だなんて幻想だ。言葉以外から伝わることだって少なくないとは言ったって、やっぱり、言わなければわからないことの方が圧倒的に多い。
 かと言って、刹那を放っておけないし、そもそもわたしの手は未だに捕まったままで動けないし。そんな風に途方に暮れていると、「なまえ、」。やがてふと、刹那がわたしを呼んで。

「……多分、嫉妬、を、しているんだと思う」
「うぇっ?!」

 えっと? ヤキモチ、って……やだ、なにそれかわいい……じゃなくて。こういうのなんて言うんだっけ。セイテンのヘキレキ?
 確かに、随分馴染んできたとは言えやっぱりロックオンは新人だし、意識的に声をかけるようにはして――ごめんなさい嘘です。(それもなくはないものの)単純に話しかけやすかっただけなのだけどそれはさておき。まさかここ最近の刹那の不機嫌がそういう訳だったとは、完全に予想外だった。
 刹那って全然顔に出ないしそういうの気にしないタイプなのかと思ってたけど、そうでもなかったんだ。かわいいなあ。ほんとかわいい。そんなこと言われたらますます愛しくなってしまうじゃないの。ああもうかわいい。
 「ふふ、」。頭の中を整理していたら思わず笑みがこぼれた。「やはり可笑しいか」。心なしか刹那はしょんぼりしてしまった。かわいい。

「すまない、忘れてくれ」
「ああっ、違うの! 刹那が謝ることないわ」

 離れてしまったてのひらを追いかけようとしてもどかしくなって、いっそ身体ごとぶつかって刹那を抱きしめる。すると、刹那もわたしを受け止めてくれる。
 わたしはうれしかった。うれしくて仕方がなかった。だって、ヤキモチを妬いてくれるってことは、それだけわたしをすきでいてくれてるってことだから。

「わたしこそ、ヤキモチ妬かせてごめんなさい」
「なまえが謝る事でもないだろう」
「でも、刹那に嫌な思いをさせたから」
「あれは……ただ、どうすればいいのか分からなかっただけだ」
「なんか刹那かわいい」
「……嬉しくない」


(君のことがすきだよ)(お前が好きだ)



居ても立ってもいられないこのどうしようもない感情をその全てを 愛と定義する
20111130
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