※ヒロイン=ガンダムマイスター


「お、こんなところにいたのか。なまえ、」

 展望室でぼんやりと外を眺めていると、後ろからそんな風な声がかけられた。振り返ると、ガラス越しに見えていたのか、「どうした? そんな深刻な顔して」。微重力の中、ふわりとわたしの隣にやってきたロックオンが訊く。
 「……反省中、なの。いつもガンダムを壊しすぎだって、イアンさんに叱られて」。わたしは少しバツが悪くて、まるで独り言みたいに小さく答えた。すると、ロックオンは少しだけ苦笑して、それから、くしゃくしゃと髪を撫でられる。

「おやっさんもなまえが心配なんだよ。今回はまた一段と派手にやったみたいだが、怪我はないのか?」
「ああ、うん……わたしは平気」

 そっか、今回は全くの別行動だったから、ロックオンは知らないんだ。わたしを気遣ってくれたその言葉に、わたしは思う。
 ガンダムアゼル――わたしに与えられたガンダム。装甲を限界まで削ることで他の四機とは一線を画するスピードを得た、敵を急襲し強襲するためのガンダム。
 アゼルが脆いことはわたしだってよく知っていた。わかっていた。それでも、あのときはああするしかなかったのだ。そもそもそれ自体わたしの迂闊さが招いた状況だったのだけれど――それでもやっぱり、あの瞬間には何か武器を抜いている暇はなかったし、かと言って、アゼルのメインウェポンである左腕のGNクローだって塞がっていたのだから。つまるところ。わたしは、捌ききれなかった敵機を、空いていた右腕で直接殴り――その結果、見事に歪ませてしまったのだった。
 ということを正直に白状すると、今度、ロックオンは明らかに困った様子で溜息を吐き出した。

「……あのなあ。いくらアゼルが防御を度外視した機体だとは言っても、さすがにあれはねーだろ。一体どれだけやればああなるんだ?」
「えっと、それはほら、相手が戦意を失うくらいメッタ打ちに……」
「あー……その、なんだ、なまえは女の子なんだから、あんまり無茶しなさんな」
「……善処する」

 苦笑も困惑も通り越して、最早ロックオンは呆れていた。その顔をまっすぐ見上げていられなくなって、わたしはうつむいて言葉を続ける。「けど……それは難しいかも」。
 だって、無茶してでも勝たなきゃ。わたしにはこれしか、ガンダムで戦うことしかできないから、それができないわたしに他の価値なんてないから。わたしの居場所はここにしかないのに、役立たずになってここにもいられなくなることが怖かった。いらないと言われることが怖かった。だから、だからだからだから、だから、わたし、は、
 「ストップ。そこまでだ」。いつの間にか視界が滲んで、こみ上げる嗚咽で言葉に詰まる。それでもなお言い募ろうとするわたしを、ロックオンが遮る。その声は、ほんの少し怒っているようにも聞こえた。

「反省するのと自分を卑下するのとは違うだろ? なあ、なまえ。アゼルが壊れたってミッション自体を失敗した訳じゃないんだ。お前は、ちゃんとお前の役割を果たしたよ」

 けれど、思わず固く瞳を閉ざしたわたしの頭上から降り落ちたのは、優しい声。それと同時に引き寄せられて抱きしめられた感覚も、いつもと同じ。ひどく安心する(ここにいてもいいって、そう言われている気がするの)。

「それに、マイスターであることだけが唯一の価値だなんて、そう自分を追い詰めてやるなよ。なまえのそういう生真面目すぎる所も、俺は好きだけどな」


(その声が温度がつむじに落とされる口付けが わたしの心を溶かしてくれる)



私の心を掬い上げるのは いつだって、
20110720
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