※ロックオン追悼 わたしは第六感だとか虫の知らせだとか、そう言った根拠のないものは信じない。それなのに、今は、彼なら何があろうと絶対にここへ来るという根拠のない確信に基づいて待っていた。デュナメスのすぐ傍、うっとりするようなその機体を見つめて。 すると、案の定やがて待ち人が現れる。「……なまえ、」。そのひとは困ったようにわたしを呼んだ。 「まさか、お前がいるとはなあ」 「どうせ、こんなことだろうと思ったわ」 いつもの軽快な口調とは裏腹に、ロックオンは笑っていなかった。わたしも笑わず、視線すら足元に落としてしまう。 「頼むから、行かせてくれ」 「やだって言っても聞いてくれないんでしょ」 「……ああ」 「利き目も使えないのに」 「それでもだ」 うつむいたままで、わたしは唇を噛む。きっと、今のこの状況では元々そうする他ないのだろう。戦術的には。それくらい素人のわたしにもわかる。でも、それでも。 「……ねえ、ひとつだけ約束して」。ロックオンの爪先を見つめて、わたしはぽつりと声を落とした。 「絶対、生きて帰ってくるって」 思った以上に情けない声が響く。ロックオンはわたしの髪を撫で、額にキスを落とした。それはまるで、駄々をこねる子供をなだめるみたいだと思った。 「だったらいい子にしてろよ? すぐに戻ってきてやる」 *** 「……うそつき、」 ハロが持ち帰ってきてくれたぼろぼろのデュナメスを前にして、わたしは呟く。 あーあ。わたし、四機の中でデュナメスが一番気に入ってたのに。またこんなにぼろぼろにしてくれちゃって。いい加減わたしだって怒るんだからね。……ねえ、怒らせてよ。ロックオンのうそつき。帰ってくるって言ったくせに。約束したくせに。うそつき。 不思議と涙は一筋も零れなかった。悲しみも、今は感じない。ただ、頭の中身をごっそりと抉り取られてしまったような喪失感だけがわたしを支配していた。 けれど、わたしは未だ生きている。敵だって、未だそこに存在している。ならば、今わたしにすべきことはたったひとつだけ。それはここで感傷に浸ることでもなければ、デュナメスを直すことでもない(そんなことは無意味だ)(デュナメスの搭乗者は、いない)。もう誰も死なせないために、生きている彼らがせめて全力で戦えるように、剣を、盾を――そのためのガンダムを、最良の状態に仕上げることだ。戦闘が始まってしまえば、わたしにできることなんてないのだから。 そして、わたしはデュナメスに背を向ける。 (ごめんね、ロックオン。泣くのはそれからでもいい?) 何処にもいかないなんて嘘 を title:選択式御題 20110122 |